適切なUSP(Unique Selling Proposition、独自の販売提案)は、顧客に自社のメッセージを伝えるのに役立ちます。
この記事を読み終わる頃には、競合他社との差別化を図ることで、顧客が自社に興味を持ってくれるようになり、興味を持ち続けてもらえる、実践に耐えうるUSPをつくることができるようになるでしょう。
USPとは
USPとは、自社のビジネスだけが顧客に提供できる具体的な恩恵・特典のことです。
ミッションステートメント、ビジョンステートメント、バリューステートメントは、顧客に向けての指針ではありますが、むしろ社内において何を優先しなければならないかの戦略的な指針として機能します。USPは、市場や顧客に直接話すことであり、なぜ自社が顧客とビジネスをする必要があるかを説明するための、最も重要な概念です。
USPと似たような意味で使われるマーケティング用語にUVP(Unique Value Proposition、独自のバリュープロポジション(価値提案))がありますが、USPは競合他社との関係でビジネスを位置づけ、UVPはビジネスを通じて顧客の生活がどのように改善されるかに焦点を当てています。
UVPは製品やサービスを使うことで顧客が経験する具体的な結果や得られる利益を表すため、USPよりも長いステートメントとなります。顧客が得られる利益・価値は、機能的すなわち製品機能の結果と感情的すなわち製品を使う時に生じる感動の両方になります。これらのメリットが製品やサービスの価格を上回ることを示すのが重要です。
なお、USPとUVPは、スローガンでもなく、キャッチフレーズでもなく、タグラインでもなく、ポジショニングステートメントでもありません。「地域に根ざした企業活動を通じて、経済・社会の発展に貢献する」はUSPでもUVPでもありません。
例えば、フリーランスのデザイナーにしても、USPは重要です。競合他社とどう異なりどういった独自の価値を顧客にもたらすかを示せなければ、価格競争するしかありません。
USPをつくるには
では、USPをつくるにはどうすればよいでしょうか。以下のステップが参考になるでしょう。
1. 顧客の視点に立つ
顧客が受け取る価値によって顧客をセグメントするのが有効です。顧客セグメンテーションは、属性や購入した商品によって行うのではなく、あくまで製品やサービスで得られる恩恵からグループ化します。
顧客は製品やサービスを通して、何を行い、何を見つけ、何を感じるかを考えます。こう考えることによって、自分が売りたいものではなく、顧客が求めているものにビジネスを合わせることができます。
自分のビジネスがどのような価値を提供しているかを知るには、考えるだけではなく、他にもいくつかの方法があります。
- 顧客やクライアントと話す
- 顧客が自社のビジネスをどのように見ているかを知るには、顧客に聞くのが一番です。インタビューやアンケートが有効です。
- カスタマーサービスに確認する
- カスタマーサービスチームに、顧客からどのような問い合わせがあるかを聞いてみます。カスタマーサービスも自分で行っているフリーランスであれば、話は早いです。懸念点が浮かび上がってきたり、新たに提供できそうな価値に気付くこともあります。
- データを分析する
- Eコマースマーケティング戦略や、SNSマーケティングキャンペーンなどのデータを分析して、どのメッセージが顧客の心に響くのかを調査します。そうすると、あるフレーズやCTAが、エンゲージメント率を高めていることに気付きます。
調査においては、常に顧客視点に立つことを意識します。定性的や定量的なインサイト(隠れた顧客心理の洞察)から、顧客の要望を見極めます(もちろん「顧客視点に立つ」と言っても、顧客の意見に無批判に従うという意味ではありません)。
2. 自分に問う
次に、顧客の現在および将来の要望にどれだけ応えられているかを把握します。そのためには、いくつか自分に質問をしなければなりません。
- 自社のビジネスはなぜ存在するのか
- 自社のビジネスの主要なセールスポイントは何か
- 自社のビジネスはなぜ現在の顧客に適しているのか
- 顧客の問題をどのように独自の方法で解決しているのか
- どのような新技術が自社のビジネスを可能にし、脅威をもたらすか
- 最近、自社のビジネスはどのように変化したか
- 将来、自社のビジネスはどのように変化するか
中小企業など複数人でビジネスをしている場合は、各人がそれぞれ自身に問い、チームで共有して議論を深めることができます。そうすることで、独りよがりではない共通認識を得られます。
このステップでは、自社を際立たせるものは何かを明確にしなければなりません。そのためには、ステップ1の結果を常に考慮する必要があります。そして、自社の内部見解と顧客のそれとが乖離する部分や重なる部分を確認します。
3. 市場での独自性を把握する
ここまでで、顧客が自社のビジネスから何を受け取り、何を求めているか、そして、自社が顧客にどの程度応えているかについて、十分な理解が得られているはずです。また、現在のUSPが何であるか、それが目的に合っているかも把握しているはずです。
ここで、既存のUSPと顧客の要望の変化との間に、差異がないかを確認します。そして、競合他社のポジションを評価し、市場が求めているものとの整合性を高められないか検討します。
このように検討することで、新たなUSPを作成するよい機会となります。自社ビジネスがカスタマーサービスに注力していて、顧客からそのサポートを評価されていて今後もこのサービスを強く要望していることが分かったら、USPでこの点を強調します。
これが市場において明らかに競合他社との差別化要因となるのであれば、できる限り強調します。USPは、自社ビジネスに何を期待できるかを、顧客がはっきり分かるように、明確にしなければなりません。
USPは常にブランドが顧客へ約束することと結びついていなければならないので、ブランドポジショニング戦略や、製品ポジショニング戦略を含むポジショニング戦略ともつながります。
4. テストをする
Eコマースのマーケティングチャネル(オンラインストア)は、即時にフィードバックが得られるため、USPをテストするには最適です。マーケティングキャンペーンでいくつかの提案を試し、顧客がどう感じているかのデータを収集します。
USPが上手くいっているかどうかは、CTR(クリック率)やその他の指標で計測することができます。新規顧客のCPA(コストパーアクイジション=獲得あたりのコスト)が下がったり、CLV(顧客生涯価値)が上がれば、USPが顧客の共感を呼んでいる可能性があると見なせます。
USPの核をなすメッセージを、エレベーターピッチを活用してつくることも有効です。社内外の人でテストを行い、フィードバックを求めます。
余分な言葉や効果のない言葉を省き、意味を殺さずに核となるメッセージを抽出していき、様々な人で試し、自社が提供するものがなぜ独自の価値があるのか、すぐに理解してもらえれば、その提案は有効なものとなります。
5. 明確に伝える
どんなに説得力のある提案であっても、巧妙につくられた提案であっても、実践していないことを、実践できないことを提案すると、あっという間に見抜かれます。顧客に伝えている価値観を確かに実践しているのだと、ブランドメッセージで示さなければなりません。
そのため、社員全員がUSPは何であるかを知り、それを明確に伝えることができなければなりません。そして、USPはあらゆる企業活動に組み込まれていなければなりません。
例えば、USPで最速の顧客サポートを約束していても、休日に人員がいなければ、USPを実現することはできません。ビジョンに基づき目標を達成するように、人材を配置し、従業員にインセンティブを与え、USPを実現するための障害を取り除いて、目標を達成できるようにします。
そうすれば、顧客が期待している体験を提供できると確信できるので、パンフレットやポスターやWebサイトなどのマーケティング販促ツールで堂々とUSPを伝えることができます。顧客はすぐに不満をSNSなどであらわにしますが、USPで約束している以上の満足を与えられれば、逆に信頼し、高評価を共有してくれます。
6. 適応し続ける
顧客の要望は常に変化し続け、USPは顧客の要望と密接に結びついているため、USP見直しの検討が必要になることがあります。また、新技術や競合他社の登場、社会状況や経済状況の変化でも、USPは変更を迫られます。
マーケティングのパフォーマンスデータを監視し、定期的に競合他社や市場の分析を行い、顧客の要望から離れていかないようにすることが大切です。変更の必要があるときは、上記のステップに従って現状のUSPを再検討します。
参考とすべき例
強力なUSPを打ち出すためには、時間の試練に耐え、顧客に大きな成果をもたらす企業のWebサイトを見てみるのは、参考になります。大企業であろうとフリーランスや自営業であろうと、USPが必要であるのは変わりありません。
1. Amazon
Amazonは、20年あまりでオンライン書店から巨大な多国籍テクノロジー企業へと成長しました。Amazonは顧客の要望に応えるために、極めて強力な最先端のレコメンデーション機能を開発し続けています。
Webサイトは見た目の美しさからはかけ離れていますが、それは、USPと無関係で顧客が求めているものではないからです。顧客が求めているものは早く安く商品が手に入ることで、物流の拠点であるフルフィルメントセンター(配送センター)の改善には余念がありません。
2. Square
モバイル決済サービスのSquereは、クレジットカード利用の不便さから、スマートフォンのオーディオジャックに接続することで簡単に電子決済ができるSquare Readerを提供することから始まりました。
モバイルデバイスによるクレジットカード決済、POS、業務管理やオンライン販売に至るまで、契約手続き不要の手軽さで顧客を増やし、成長し続けています。

3. Evernote
Evernoteはメモをとることに特化したアプリを提供しています。キーボードでの入力、画像キャプチャ、音声、スキャン、OCRなど、多様な形式でメモを保存することができます。
顧客の要望に合わせ、あらゆる記録を一元化でき、すぐに検索して取り出せる、いわばデジタルブレインとしての価値を提供しています。

顧客への価値をつくり、顧客に提供すること
USPは、顧客視点を反映したものでなければなりませんが、それに過剰に囚われる必要はありません。また、自社のビジネス目標を前面に押し出すことなしに、目標を実現するものでなければなりません。そして、その時々の顧客や、競合他社や、市場の動向や、技術の移り変わりに対応しつつ、しかも、時代に左右されないものでなければなりません。
とすると、USPをつくるのは極めて難しいと思わざるを得ません。当然、USPをつくるのは難しいものです。ただ、上記のような手順を経て、他社のUSPからインスピレーションを得ることで、つくり出せるはずです。