Forresterの調査によると、顧客の期待に応え、顧客への価値を生み出すことができる営業担当者は、20%しかいません。つまり、多くの営業担当者は、製品やサービスの説明はできるけれども、製品やサービスと顧客の要望とを結びつけることができていません。
なぜなら、営業のトレーニングを受け、セールスを始める準備ができていても、販売戦略がないからで、販売戦略がないために、販売まで至らないわけです。
フリーランスの方、特に、自宅などで黙々とパソコンに向かって作業をしているIT系エンジニアやデザイナーなどは、案件の末端で苦労から抜け出せない方も多く、それは、営業が苦手だったり、営業の時間を確保していなかったりで、営業そのものを業務から外しているからです。
東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の人件費は1日30万円のケースがあるにもかかわらず、また、例えば外注ディレクターは税金で日当20万円が使われるけれども、実際ディレクターに支払われるのは12,000円だけだといいます。(「『守秘義務で…』五輪担当相、人件費詳細把握できず」(毎日新聞、2021/4/19))
95%は中抜きされ、5%だけが報酬となる。フリーランスの立場もこれと似ています。下請け、孫請けは当たり前で、400万円で発注されたポスターを作ったフリーランスデザイナーの報酬が3万円、ということもよくあるわけです。
新型コロナ蔓延など社会状況の悪化で収入源をもろに食らうのは下流業務を担当するフリーランスなどですので、苦境から抜け出すためには、マーケティング戦略や販売戦略を学び、ビジネスに活用していくことが有効です。
さて、強力な販売戦略は、営業活動の落とし穴を回避し、自社に成果をもたらすためのスキルや知識、最も効率の良い方法を、営業担当者にもたらします。
販売戦略とは
販売戦略とは、競合他社との差別化を図りつつ、販売に値する顧客に製品やサービスを販売するための計画です。販売戦略には、明確な収益目標を示すKPI(主要業績評価)、バイヤーペルソナ、ポジショニング戦略などの目標や、目標を達成するための指針が含まれます。
販売戦略は、顧客視点からの顧客に提供する価値、すなわちバリュープロポジションをまとめたもので、顧客の要望に、製品やサービスがどのように適合するかを説明したものです。
販売戦略をつくるには、営業担当者が顧客を深く知り、ターゲット顧客がいる市場、購買プロセス、競合他社製品などを考慮した上で、自社が顧客にどのように役立つかを説明できなければなりません。
また、販売戦略には、アウトバウンドセールスとインバウンドセールスのどちらを採用するか、報酬や組織についてなど、運用していく上でいくつかの検討すべき事項があります。
なお、アウトバウンドセールスとは、営業担当者が顧客と接し、取引を成立させる伝統的な営業手法で、インバウンドセールスとは、広告、SNS、Webサイト、紹介など、インターネットからクライアントを獲得する営業手法です。
販売戦略の立て方
成功する戦略にはいくつかのステップがありますが、ここでは、その中でも重要なものをご紹介します。
1. 測定可能な目標を設定する
セールスは販売戦略から始まり、その戦略には、測定可能な目標が必要です。月、四半期、年などの収益目標を決めます。これは、自社の収益目標と一致していなければなりません。
目標が決められれば、リードコンバージョン率に基づき、この目標を達成するためのセールスリード、販売適格リード(SQL)数をモデル化します。過去の実績から、この数値をできるだけ正確に見積もります。
また、収益の8割を占める顧客はどのような顧客か、その顧客の取引額を増やすにはどうすればよいか、こういった顧客をどこで見つけることができるかなども考慮します。
販売戦略は自社の方針と一致しているでしょうか。新規市場を開拓している場合、販売戦略には、市場の何%のシェアを獲得するかも含めるべきでしょう。
過去の実績と比べて、目標が実際に達成可能かどうかを必ず検討します。実現不可能な目標を立てると、営業担当者はモチベーションを失います。
営業は数字を重視するとは言え、数字を達成するために苦しむほど、営業担当者の自信も失われていき、営業チームの士気は低下します。
2. 購入者のペルソナを特定する
販売戦略を成功させるためには、顧客の要望に焦点を当てることが重要です。顧客が抱えている問題を解決するのが製品やサービスであり、それを販売戦略に反映させることは、売上を上げるために不可欠です。そのために、販売戦略では、ターゲット市場と、理想的な顧客像(ICP)やバイヤーペルソナを定義します。
バイヤーペルソナを特定するには、最も収益性の高いクライアント、つまり、最も購入している顧客を調べます。また、販売を開始したばかりの場合は、製品やサービスに最も適した顧客を特定します。そして、顧客の属性や心理を調査し、ペルソナを作成します。
このようにしてつくったバイヤーペルソナは、営業担当者が適切なリードに絞り込んで、取引を成立させる可能性を高め、リードクオリフィケーション、すなわち、実際に購入する可能性が最も高い潜在顧客を特定する作業を、効率的に行うために役立ちます。
3. バリュープロポジションを定義する
バリュープロポジションは、製品やサービスが顧客に提供する価値を約束する声明で、製品やサービスの価値がどのように提供され、経験され、獲得されるかを要約したものです。バリュープロポジションでは、製品やサービスが魅力的なのはなぜか、顧客がそれを購入する理由はなにか、その価値が競合他社とどのように差別化されるのかを説明します。
バリュープロポジションを定義するには、顧客の要望が何であるかを特定しなければならず、そのためには、顧客をよく知らなければなりません。営業とマーケティングが協力し、統一されて一貫性のある顧客へのメッセージを作成します。
バイヤーペルソナは、顧客の概要や解決しようとしている問題を示します。これにSWOT分析を加えます。SWOT分析では、市場における自社のポジションを確認するために、自社の強みと弱みを明らかにするとともに、機会と他社の脅威を調べていきます。そうすることで、競合他社と自社との対比が可能となり、自社の提案がなぜ優れているのかを浮き彫りにできます。
これらを統合して、営業戦略における、一貫してわかりやすいバリュープロポジションにします。また、バリュープロポジションを裏付けるための証拠、例えば、顧客の声、ケーススタディなどを挙げることで、より強力なものにできます。
4. 販売業務や報酬を決める
販売戦略には主要な販売プロセスが組み込まれていますので、営業活動が効率的に運営され、営業担当者は必要な責任を果たすことができます。
CRMソフトウェアには、販売管理者が営業チームのパフォーマンスを分析できる機能、例えばリード管理活動などを分析できるレポート作成機能がありますし、販売パイプラインに十分なリードがいない場合には収益目標を達成できないと分かるので、迅速に方針を変更することができます。
販売戦略では、販売地域の決定や、営業チームにインサイドセールスとフィールドセールス(アウトサイドセールス)のどちらが含まれるか、アウトバウンドとインバウンドのどちらの手法を使うか、アカウント管理が含まれるかどうかなど、営業活動に必要な点を検討していきます。
また、新しい営業担当者をどのように採用するのかや、業績の思わしくない営業担当者をどのように指導するかなど、トレーニングもまた、販売戦略に重要な要素です。
報酬についても重要です。販売戦略は、営業担当者にどのような報酬を与えるかを示さなければなりません。給与のみ、給与とコミッション、コミッションのみ、ボーナス(インセンティブ)を追加するかどうかなどです。
5. アクションプランをつくる
目標を達成するための方法を営業担当者個人に任せるよりも、アクションプランを作成して、繰り返し用いることのできる最も効率の良い方法を共有すべきです。これは、営業戦略の一部であり、営業チームがクライアントを獲得するためのよい方法となります。
アクションプランには、見込み客獲得の方法、目標を達成するためのパイプラインに必要なリード数、必要なセールスコール数などを組み込み、セールスファネルをつくるのに役立ちます。
販売戦略の例
販売戦略には多くの概念が含まれています。成功する戦略をつくるために、販売戦略を構成する様々な要素をどのように実装するかの例を見てみます。
1. 親近感のあるバリュープロポジション
バリュープロポジションを、顧客の問題を解決するためのストーリーと見なし、顧客にとって親しみやすいものにする必要があるでしょう。
そのストーリーは、市場におけるデータを用いて、顧客の潜在的な要望を引き出すものであるほうがよいでしょう。データを顧客に提供して、そのデータがなぜ顧客と関係しているかを、顧客に伝えるのです。
今ではWebサイトのモバイルファーストはごく当たり前になっていますが、スマートフォンが登場する前、Webサイトはパソコンでアクセスするもので、ガラパゴス携帯でのアクセスはおまけのようなものでした。
iPhoneが登場してスマートフォンが普及した頃、あるクライアントに、今はスマートフォンでのアクセスが増えていて今後も増え続けるから、スマートフォン向けに最適化したWebサイトにしたほうがいいと、データを見せてアドバイスしたところ、そのクライアントは、まだパソコンでのアクセスが多いと思っていたので、とても驚いていました。スマートフォン市場が大きくなっていることを知らなかったのです。
ただし、あまり数字を出しすぎるのもよくありません。専門知識を伝えることが目的ではありませんから、自然な形でバリュープロポジションに組み込む程度がよいでしょう。
バリュープロポジションを通じて、顧客の話を引き出し、記憶に残すことが重要ですので、ストーリーを話しつつ顧客の反応に十分注意を払います。
2. 販売プロセスからバイヤーズジャーニーへ
リードナーチャリングなどの販売プロセスは、販売サイクルにおいて必要不可欠なものです。しかし、営業担当者が、顧客の購買プロセスに合わせて柔軟にアプローチを調整するのではなく、リストの項目をチェックするように、機械的に手順を進めている場合は注意しなければなりません。
セールスファネルでリードを下のほうに移動させる場合、どのような基準を用いているでしょうか。顧客の視点で見ているのでしょうか。どのように製品やサービスが顧客に価値をもたらしているかがわかっているからでしょうか。それとも、電子メールリストの登録に基づいて判断しているのでしょうか。
営業担当者は、顧客それぞれの問題解決に焦点を当てるべきで、機械的な作業では顧客は簡単に離脱します。顧客がどのように購入の意思決定をするか調べ、バイヤーズジャーニーを意識しなければなりません。
3. バイヤーペルソナからパーソナライズへ
バイヤーペルソナは、顧客をセグメントするのに便利なツールです。しかし、これは顧客セグメントの出発点であって、「バイヤー」はひとりひとりの異なる人間だということを念頭に置かなければなりません。
ある顧客は競争の激しい市場で日々忙しく、ある顧客は社内調整に苦労しています。顧客それぞれの状況に対応することは、型にはまったバイヤーペルソナをそのまま適用するよりも、営業活動に役立ちます。
顧客が抱えている問題を顧客に聞いたところで、競合他社に話すのと同じ答えが返ってくるかもしれません。これでは、競合他社と同じ話題になって、差別化するのが難しくなります。
ですので、顧客が気づいていない問題を明らかにして、その解決策を提示します。そのためには、顧客の業界の動向に目を向けたり、顧客のWebサイトなどで手がかりを探します。
また、既存顧客にも目を向けます。既存顧客はデータもありますし、どうすれば既存顧客をさらに助けられるか話を聞くこともできます。新規顧客を獲得するよりも既存顧客との取引を増やすほうが簡単な場合が多く、費用も少なくて済みます。
販売戦略について最後に
販売戦略は、組織の成長や、顧客や市場の変化に合わせて進化させていかなければなりません。
測定可能な目標を使って改善の機会を見定め、顧客からのフィードバックを営業プロセスの強化に役立てます。顧客の問題を解決することを計画の中心に据えれば、販売戦略は結果をもたらします。