リードスコアリングは、質の高いリードに時間を費やすために、リードの購入可能性を数値で判定するための仕組みです。質の高いリードに集中することで、売上を最大化することができます。
リードスコアリングは、マーケティングオートメーション(マーケティング自動化)の一環として活用されることが多く、より少ない労力で高い効果を上げることができるため、いずれの企業にも有効ですし、リードが大量にいる場合やリソースの少ない小規模な組織やフリーランスには、破壊的な特恵をもたらします。
マーケティングチームは、リードを生み出すことで、セールスチームやビジネスに貢献しています。しかし、購買意欲の少ないリードをセールスチームに渡すと、チーム間の連携にほころびが出ることになります。そのため、マーケティングチームは、リードスコアリングシステムを導入して、リード認定プロセスを自動化するわけです。
リードスコアリングによって、リードの質を定量化でき、より正確な売上予測も立ちますし、スコアによって適格性が確認されたリードに販売を行うので、営業活動の生産性も増します。スコアが高いリードが成約する確率は、スコアが低いリードよりも高くなりますので、収益増加にも貢献します。
ここで注記しておきますと、リード適格性の判断は、通常、チーフレベニューオフィサー(CRO)の管轄で、顧客ライフサイクル(カスタマーライフサイクル)を重要なビジネス仕様の基礎とすると、顧客生涯価値(カスタマーライフタイムバリュー、CLV)には、マーケティング、セールス、カスタマーサクセス、プロダクトのすべてのチームが責任を持ち、マーケティングあるいはセールスはリード生成や顧客獲得だけに責任を持つということはあり得ません。
リードスコアリングとは?
リードスコアリングとは、リードが自社の製品やサービスにどれだけ興味を持っているかを数値化する仕組みで、インサイドセールス戦略の重要な一部となります。
スコアリングモデルは各企業や利用しているCRMなどのソフトウェアによって異なりますが、リードスコアリングの基準はおよそ共通しており、主に以下のデータを用います。
- リードから得られる人口統計(デモグラフィック)
- リードがWebサイト、電子メール、広告、その他デジタル資産で行った行動
スコアリングの基準は、リードや見込み客のアイデンティティ、つまり、彼・彼女らが誰であるか、そして、エンゲージメント、つまり、どれだけ彼・彼女らが関心を持っているかに基づきます。
セールスファネル、マーケティングファネル、リードジェネレーションファネルにおいて、リードを各段階に配置していきますが、どこに配置すべきかを、どのように判定するでしょうか。
リードが、マーケティング適格リード(MQL)、あるいは販売適格リード(SQL)になるかを判定するのに、BANTなどの販売フレームワークを用いる場合もあります。
しかし今日では、人々は、予算や時間枠などが決まる前から情報収集を行っています。Webサイトを訪れ、ホワイトペーパーをダウンロードしたり、ソーシャルメディアで情報を共有したりします。
大抵の場合、営業担当者はこういった行動を把握することができません。
購買プロセスの複雑化に伴い、幅広い行動データから、リードの質を把握する必要があります。人口統計データが理想的な顧客像(ICP)に合致しても、購買意欲を判断するには、行動情報を得なければなりません。
BANTなどの販売フレームワークを使っていたり、リードスコアリングを用いない場合は、主観的であるという問題があります。直感に依存し、担当者個人の体験や経験から導き出されるため、ヒューマンエラーやバイアスの可能性を多分に含み、正確性に欠け、再現性がなく、ビジネスに一貫性を保てなくなります。
現在では、ルール型リードスコアリングによるリードスコアリングモデルの設定、データ入力、モデルの調整など、試行錯誤をする時間面での負担や人為的なミスを解消できる、機械学習を利用した予測型リードスコアリングも登場しています。
リードスコアリングモデル
すべてのリードには数多くのデータポイントがあり、マーケティング担当者は、リードスコアリングモデルを構築するための必要な情報をたくさん持っています。
分析ツールを活用して、過去および現在の顧客から価値のある共通の属性を特定していきます。この共有の属性は、リードが顧客になる可能性が高いことを示す行動、理想的な顧客像(ICP)あるいはペルソナ、セグメントなどを強調する価値のあるものでなければなりません。
顧客獲得戦略を決めているのであれば、これらの属性を素直にリードスコアリングのモデリングに反映します。顧客獲得戦略が完成していない場合は、リードスコアリングのモデル化と並行して進めていきます。
ここでは、自社のリードスコアリングのニーズに合わせて最適なフレームワークを作成するために、5つのリードスコアリングモデルを紹介します。
1. デモグラフィック
デモグラフィック(人口統計)とは、年齢、性別、居住地域など、コンバージョンやソフトウェアによる自動取得で得られる情報です。
顧客生涯価値(CLV)の高い顧客が、首都圏在住の50代男性の場合、同様のリードに高いスコアを付けることになるでしょう。
ただし、人口統計だけでは不十分で、ここではモデルに入れていないサイコグラフィック(心理統計)や、他のモデルと合わせて活用します。
2. セグメンテーション
セグメンテーションとは、リードの所属する企業と役職を考慮した、より詳細な属性です。セグメンテーションは、購買力に焦点を当てるため、人口統計のみよりもスコアリングに有効です。
製品やサービスがZ世代によく売れているのであれば、その人口統計を掘り下げて、共通の業種や職種を見出します。B2B販売で製品が高価な場合は、Cレベル(あるいはCスイート、CEO、CFO、COOなどの経営幹部)が意思決定に関与していると類推できます。
リードスコアリングモデルでは、購買権限のあるCレベルのリードに高得点を与えます。
3. 行動属性
行動属性は、リードの最も有力なデータポイントです。行動属性には、リードがWebサイトで行った行動、ブランドや製品・サービスとの間で行われるコミュニケーションや関係構築が含まれます。
新しいコンテンツやダウンロードできる資料などを定期的に公開し、リードと交流できるようにすることが肝心です。
また、もう一点重要なことは、リードがWebサイトで行動を起こす、すなわちコンバージョンするための経路を常に確保することです。
- ページ訪問数
- Googleアナリティクスなどの計測ツールを使って、Webサイトのページ訪問数を追跡することができます。リードがコンバージョンに至っていなくとも、価格・プランのページを何度も訪れていれば、そうでないよりも購入意思が高いと判断できますので、リードのスコアを高めることができます。
- ページ滞在時間
- あるページに費やした時間を分析することで、リードがどの程度興味を持っているかを判断することができます。そのページの内容からは、スコアリングのみならず、アウトリーチに役立つコンテクスト(文脈)を得ることができます。他社製品から自社製品の移行について説明したページを長時間読んでいる人は、購入意欲があるものと判断できます。
- 訪問間隔
- ある訪問者が1週間毎日Webサイトを訪れている場合は、購入するための調査をしている可能性があり、スコアを上げることになります。逆に、電子書籍やホワイトペーパーをダウンロードしても、その後Webサイトを滅多に訪れないリードは、スコアを下げることになります。
- コンバージョン
- コンバージョンではそのコンテクスト(文脈)に注意を払う必要があります。価格情報や製品比較のページでのコンバージョンは、一般的なページでのコンバージョンより価値があり、販売プロセスによりますが、販売パイプラインでSQLとなることもあります。
- ダウンロード
- コンバージョンの一種であるダウンロードは、ダウンロードされたページに加えてダウンロードコンテンツにも文脈があるため、リードがどの程度購入に関心を寄せているかをより的確に理解することができます。セールスファネルのすべての段階でそれぞれダウンロード可能なコンテンツを提供することで、分析がより正確になります。
4. オフサイトエンゲージメント
行動属性はWebサイトでのエンゲージメント(エンゲージメントとは、行動への関与のことで、例えば、ウェビナーへの申し込みや商品の購入などのリードからの関与)ですが、リードはWebサイトの外でもブランドと関わりを持つことがあります。
ソーシャルメディア、ペイドメディア、電子メール等のキャンペーンにおいて、オフサイトのエンゲージメントを分析する必要があります。
より正確なリードスコアリングモデルを構築するためには、リツイート、お気に入り、シェア、コメントなどのソーシャルエンゲージメントや、ペイドメディアのクリックスルー率(CTR)、電子メールの開封率などを計測し、定量化していきます。
5. スコア低下(デグラデーション)
リードスコアリングには、スコアリング(Scoring)とスコア低下(Score degradation)とがあり、前者はスコアリングすなわちスコアを加えていくことで、後者は、長期間ブランドとやり取りしていないリードのスコアを下げることです。
リードスコアリングの目的は、購買意欲のあるリードを抽出して適切なエンゲージメントを行えるようにすることですので、例えば、1年前に電子書籍をダウンロードしてからエンゲージメントのないリードのスコアは、下げたほうがよいのです。
このように、リードスコアリングモデルは、エンゲージメントを失うことを考慮し、スコアを上下させる必要があります。
リードスコアリングのベストプラクティス
CRMシステムを検討する際には、販売サイクルや製品エクスペリエンス(PX)などに準じて調査していきますが、スコアリングの設定や調整を簡単に行えたり、リードが価値の高い行動をした後にどのようなエンゲージメントを取り扱えるのかなどを考慮しなければなりません。
ここでは、リードスコアリング戦略を構築したり、改善したりする際に考慮すべき点を、いくつか紹介します。
スコアリング基準と責任の明確化
MQL、SQLを販売プロセスに採用している場合は、マーケティングチームと営業チーム、およびカスタマーサクセスチームとで、PQLを採用している場合はプロダクトチームも加え、リードスコアリングにおいて、どのような行動が評価されるかを合意しておかなければなりません。
当然ですが、フリーランスや一人社長で事業を行っている場合は、あらゆる役割を兼任しますので、自分一人で、リードがセールスファネルに入ったときから始まる統一された販売プロセスを確立させます。この過程はビジネスの根幹に関わることですので、安易に外注しないほうがよいでしょう。
スコアリング基準と責任の明確化のヒント
ここで重要なことは、リードをマーケティングからセールスに移行するタイミングを明確にすることです。そうすれば、お互いの責任の下、自らの業務に集中できます。
- 協力する
- スコアリングの基準や次のアクションについては、マーケティング、セールス、カスタマーサクセス、プロダクトの各チームの意見を採り入れ、ブランディングやメッセージングが一貫していて、リードを顧客に、顧客をロイヤルカスタマーにするために最適化されていることを確認します。
- 自動化する
- スコアリングのシステムにしきい値を設定し、リードのスコアに応じてメッセージがトリガーされ、自動的に送信されるようにします。
ナーチャリング
リードナーチャリングとは、リードとの関係を構築し、強化し、維持し、ブランド認知度を高めるコミュニケーション戦略です。リードとの関係構築後は、見込み客、顧客との関係構築維持も必要で、これらを含め、「ナーチャリング」と言います。
リードナーチャリングは、「リード育成」と訳すことができますが、リードを「教育」するという意味に取るのは好ましくありません。
日本語の「教育」という言葉には、「育成」も同様ですが、飼いならす、洗脳する、言いくるめる、口説き落とすなどの、相手を蔑んで従わせるという意味が多分に含まれ、「教育」と表現する場合は、対等な人と人との関係をつくり上げる気がないのが透けて見えます。
権威主義的性質の人には何が悪いか分からないもしれませんが、リードナーチャリング段階で「教育」としてリードを「育成」してしまうと、売り手と買い手との間に、健全な人間関係を作ることができませんので、首尾よく売れたとしても、販売後の顧客維持に難航することとなります。
さて、ナーチャリングキャンペーンは、電子メールやWebサイトコンテンツで行うことが多いですし、適宜、リードが抱えている問題から生じる苦痛を解消するコンテンツを提供することで、リードはセールスファネルの次の段階に進みやすくなります。
ナーチャリングのヒント
リードナーチャリングキャンペーンにおいて重要なことは、リードへの連絡を絶やさず、ファネルの先に進むためのきっかけを提供することです。
- リードをパーソナライズする
- リードが販売サイクルのどの地点にいるか、リードの所属する業界、過去の行動などを考慮して、キャンペーンを設計する必要があります。
- キュレーションする
- 何もオリジナルコンテンツだけに拘ることはありません。リードの悩みを解決して前に進んでもらうために、調査して役立つリソースを集めるキュレーションコンテンツもまた、リードにとってはありがたいものです。
リードスコアリングの継続的な最適化
リードスコアリングを設計し、運用していくと、ポイントの配分や自動化されたアウトリーチなど、調整や変更しなければならないことが、頻繁に出てきます。
リードが顧客になるまでの流れは顧客との関係の一部であり、長期的な関係維持から俯瞰しなければなりません。そのため、理想的な顧客像の作成やリード獲得の段階から設計し直す必要も出てくるかもしれません。
改善を行っていくことで、スコアリングも最適化されていき、事業の成功に近づきます。
リードスコアリングを継続的に最適化するヒント
リードスコアリングは、一度決めたらそのまま上手く進められるものではありません。社会状況や顧客のニーズは絶えず変化しています。災害や疫病が発生し、人々の行動や意識が大きく変わることも出てきます。そのため、継続的に最適化していかなければなりません。
- 他社を参考にする
- 様々な企業のランディングページなどのフォームを試し、リードをどのように扱っているか確認してみるのも手です。他社がリードをどのように対処しているかは改善のヒントになります。
- レビューを行う
- マーケティング、セールスなど、チームそれぞれではなく、各チームのCスイート(CMO、CSO、CPOなど)が定期的に寄り集まって改善点などを議論します。タッチポイント数とファネルを通過する速度に注意を払います。
リードスコアリングで注意すべき点
リードスコアリングを導入し、最適化していくことで、各種ビジネス指標を向上させるには、状況に応じて対応していくのが肝心です。
ここでは、よくある注意点をいくつかご紹介します。
サイロを解消する
それぞれの業務プロセスが孤立している「サイロ」の状態ですと、リードスコアリングを導入してもスムーズに全体のプロセスが進みません。
マーケティング担当は顧客獲得だけに責任を持てばよい、営業担当は契約成立だけに責任を持てばよい、などという方針でビジネスを進めると、必ず頓挫します。
ある人がリードになろうが、見込み客になろうが、顧客になろうが、同一の人物です。その人から見るブランドは、企業の担当がマーケティング、セールス、カスタマーサクセスと変わっていこうとも、同一のブランドと接しています。ブランドの言質・メッセージが、担当が変わるごとに変われば、その人は不快に感じるでしょう。
リードスコアリングを含め、顧客に関わるプロセスには、顧客と関係するすべてのチームが関与しないとなりません。
顧客からのフィードバックを得る
顧客のフィードバックというと、「顧客の声」を集めると思いがちですが、それだけではありません。エンゲージメントや、双方向のコミュニケーション(インタラクション)から、顧客満足度や、顧客ロイヤリティの指標NPS(ネットプロモータースコア)などの数値を活用していきます。
ビジネスを成長させるためのリードスコアリングと、根本的な失敗を避けるために
販売パイプラインに大きく依存している場合は、リードスコアリングを導入することで、見込み客判定プロセスを自動化し、業務の効率化とビジネスの成長を図れます。
当初では想定していないリードや顧客の需要に応じて製品やサービスを変えてしまうこともあるかもしれません。それを「顧客目線」とか「お客様本位」などと安易に解釈してしてお茶を濁すのは、たいへん不幸です。やりがいのある仕事ができなくなった従業員のモチベーションは下がり、事業は低迷していきます。
これはこういうことです。
時計屋が一流の時計職人を雇い、高価で優れた腕時計を作らせましたが、全く売れなかったので、「どうやら高い腕時計を市場やお客さんは求めていないから、品質を下げて安く売ろう」と方針転換して、一流の仕事とブランドを捨ててしまいました。
こうした誤りは、リードスコアリングを導入すればすぐに解決します。
前述のように、集めやすいところから集客して、そのリードが求めるものを「顧客のニーズ」と誤解した結果、事業を壊してしまうことや、そのリードを「教育」して強引に買わせてしまうような、営業やマーケティングの暴走がなくなります。
誤った方針で集めたリードはスコアがマイナスになり、最初の段階でパイプラインから弾かれることになるからです。