営業系のフリーランス・個人事業主は別として、製品やサービスを売っているフリーランス、あるいは、技術を売っているフリーランス、例えば、ITエンジニア、デザイナー、ライター、カメラマンなど、自分のスキルを提供しているフリーランスは、得意なことを専門にしているだけに、営業がネックという方も多いでしょう。
もちろん、フリーランスだけではなく、ひとりや少人数で会社を運営している小規模企業者もまた、企業の形は違いますが、同じ悩みを抱えている方が多いはずです。
営業というのは過酷な仕事と思えます。苦労して会う約束を取り付けた企業でプレゼンテーションを始めようとしたとき、相手の担当者はこう言うかもしれません。
「弊社はあなたのことを知りません。あなたの商品のことも知りませんし、あなたの顧客も評判も知りません。そもそもあなたが何を目指しているかも知りません……。そういうわけですので、弊社があなたから何かを買う理由がないのです」
ここで自分の商品(スキル)がいかに優れているか、どれほど自分の商品(スキル)が役立つかを力説しても意味がありません。
例えばIT系のエンジニアやデザイナーであれば、ランサーズやクラウドワークスなどのクラウドソーシングサイトで営業をしているかもしれません。
案件の募集に応募するときに、あるいは顧客との会話で、スキルの話をするのは効果がありません(もちろん、相手がスキルを殊更に重視していたり、スキルを聞かれてそれに答えるのは別です)。同じ程度の技術をもった応募者はたくさんいるのです。自分よりはるかにスキルの高い人もたくさんいます。自分の代わりはいくらでも見つかります。そもそも、スキルは「自分」ではなく自分の「属性」です。
こういうときには、相手の疑念を解消しようとして疑問にひとつひとつ答えるのではなく、「私にはアイデアがあります」と言えばよいのです。
相手は製品やサービスを買うのを望んでいないかもしれませんが、自分のビジネスを改善するアイデアには耳を傾けてくれるはずです。
アイデアを売ることは、営業の過程で自分を競合他社と違う地点へとずらします。自分を単なる営業マンとしてではなく、ソリューションを提供する人として区別することができるのです。こうなれば、自社の製品やサービスを競合他社よりも安く売るコモディティセールスに陥らずに済みます。自分が売っているのは自社製品ではなく、ビジネスを改善する方法となるわけです。
営業はモノを売るための活動だと思っているのであれば、誰かを助けるための活動だと認識を改めたほうがよいでしょう。
アイデアを提供し販売につなげる9つの方法
- 自分を売る
- パーソナルにする
- ストーリーを語る
- 透明性を保つ
- 独自性を強調する
- ROIを示す
- サクセスストーリーを共有する
- 安心感を与える
- 緊急性を高める
1. 自分を売る
誰もが信頼できる人と取引したいと思うでしょう。いかにアイデアを売ると言っても、信頼してもらえなければ受け入れられません。アイデアを売るにしても、自分自身を売り込まなければなりません。
これは極めて重要なことで、営業マンが信頼できると考える人はわずか18%で(Harvard Business Review)、科学者、医師、教師などと比べると、圧倒的な低評価です(Ipsos)。
この問題に正面から取り組み、自分が信頼できるという証拠を示す必要があります。営業職のフリーランスでなければ、幸いにも、営業以外の専門を持っています。
2. パーソナルにする
アイデアを提案する前に、そのアイデアがターゲットとなる相手にどのような良い影響を与えるかを見極めなければなりません。そのためには、そのアイデアが、相手の抱えている問題を解決するために、どのように役立つかを調査しなければなりません。
もし相手が、販売ノルマを達成できていないことに悩んでいると同時に、日々の残業に問題を抱えている場合、自分のアイデアが販売ノルマを達成して業務効率化するものであれば、相手は喜ぶでしょうし、それが相手の個人的な目標の達成に貢献するのであれば、なおさら有難がられるでしょう。
ですので、自分の販売戦略に、パーソナルなアプローチを組み込むのが効果的です。
3. ストーリーを語る
チップ・ハースとダン・ハースによると、プレゼンテーションの後、ストーリーを覚えている参加者が63%なのに対し、統計を覚えている人はわずか5%とのことです。いくら数字を盛り込んで話をしても、記憶には残らないということです。数字よりも、アイデアがどのように実現したり役立つかのストーリーを語るほうが有効です。
ストーリーには、起承転結がなければならず、アイデアの検証とならなければなりません。例えば以下のステップに従ってストーリーを組み立てます。
- 1. 主人公が登場する
- 事業に成功する主人公(顧客)が登場します。
- 2. 悪役が登場する
- しかし、主人公(顧客)には、目標達成を妨げる問題や苦痛(悪役)があります。
- 3. 主人公が悪役を退治する
- 自分のアイデアやソリューションで、主人公(顧客)は問題や苦痛(悪役)を取り除きます。
- 4. 主人公が幸せに暮らす
- 問題や苦痛(悪役)を解消(打ち負か)し、主人公(顧客)によい結果が訪れます。
4. 透明性を保つ
顧客が自分のアイデアを聞くのは初めてのことかもしれず、そのアイデアのことを詳しく知らないかもしれません。なぜそのアイデアが顧客にとって有益なのか、説得力を持たせるために、アイデアに関する情報は、それに至る調査も含め、全て開示して透明性を保ちます。
5. 独自性を強調する
アイデアを提案する際には、他の誰のアイデアとも違うことを分かってもらわないとなりません。そのために、自分のアイデアが顧客に提供できる具体的な利益であるUSPを強調する必要があります。
アイデアを受け入れてもらえたら、次は、顧客の「なぜあなたから買わなければならないか」という疑問を解消しなければなりません。どの業界も取引先はたくさんありますし、同じようなアイデアをより安く提供できる企業もあるでしょう。自分のUSPやアイデアの特質を明確に説明できなければ、契約には至りません。
6. ROIを示す
どれだけ素晴らしく見えるアイデアでも、ROIを示さなければなりません。どの程度の利益があるかを曖昧に伝えるのではなく、実際の数値を使って、グラフなどを用い、視覚的に納得してもらうことです。
そのアイデアを進めるには100万円の費用がかかり、売上が1,000万円となるなら、ROIは1,000%となります。具体的な数字をわかりやすく説明すれば、理解してもらえます。
7. サクセスストーリーを共有する
自分のアイデアがクライアントにどのような利益をもたらしたかという成功例を顧客と共有します。これによって、顧客のリスク感を軽減することができます。成功例は多ければ多いほど安全です。さらには、成功したクライアントの証言を利用させてもらい、文章だけではなく、クライアントの写真や動画があると、より効果的です。
ただし、単なる感想や推薦ではなく、具体的な数値を言ってもらうことです。例えば、「50万円の予算で300万円の売上があるとのことでしたが、実際には50万円の予算で500万円の売上が上がりました」といったようにです。
8. 安心感を与える
アイデアを採用するということは、今までの習慣や考えを変えて違うことを実行するということになりますから、顧客にはリスクを取る勇気や決意が必要になります。ですので、安心してもらわないといけません。
人は常日頃から不安を感じています。不安の原因は、仕事、評価、家族、地位、経済、健康など、様々です。自分のアイデアが相手の不安を少しでも解消すれば、相手は安心していくでしょう。これが、ROIやサクセスストーリーが効果的な理由です。心の中の不安の種を取り除いていくわけです。
9. 緊急性を高める
フォローアップの期限を決めたり、インセンティブを提供したり、同じアイデアを話している顧客が他にもいると伝えることで、緊急性を高めることができます。緊急性をもたせることは、アイデアを買ってもらったり契約を成立させたりする際の、最も重要な方法のひとつです。
ただし、何をするにせよ、作為的な期限や嘘っぽい緊急性をつくるのはいけません。顧客との関係にひびが入り、それまで築いてきた信頼を損なう恐れがあります。
「この条件で購入いただけるのはこれが最後です。今すぐ回答が必要です」といった、いわゆるハードグローズ手法は最も効果が低く、むしろ「合わせてこれをご注文いただけますと、10%値引きします」といったソフトクローズ手法が最も効果が高いという調査結果もあります(Harvard Business Review)。
セールスを成立させるには
相手と商談を始めたときに、たとえ反応が冷ややかだったとしても、アイデアを明確にして、それが相手にどれだけの利益をもたらすかを説明した後には、相手の顔がほころんでいるかもしれません。最終的に取引を成立させるには、信頼を確立することが必要です。相手が自分を信じていなければ、アイデアも信じてもらえません。
何を売るにしても、アイデアがあれば心の扉を開けやすくなりますが、セールスを成立させるのは、十分自分に注目させた後に行うべきです。