マーケティングに何億円も使うことのできる大企業とは違い、中小企業の予算は極めて限られています。特に数人~1人で事業を行っている小規模企業者の場合は、リソースも全く足りず、予算もせいぜい月1万円といった状況になるかもしれません。
しかしながら、マーケティング活動を行わなければ、事業を継続していくのは難しくなります。ここでは、限られたリソースと限られた予算での現実的なマーケティング計画の作り方と管理方法を採り上げます。
マーケティング計画は、ビジネス計画の重要な一端であり、自社の製品やサービスのターゲットとなる市場や顧客を特定し、その顧客に対してどのように販売を成功させるかを示すものです。
小規模企業者のためのマーケティング計画の作り方
会社の規模に関わらず、マーケティング計画には6つの重要なステップがあります。零細企業では、このステップを、予算とリソースが潤沢な大企業と同じように行うわけにはいきません。しかし、6つのステップのいくつかを省略することはできませんので、可能な限りソフトウェアを活用して負担を減らします。
例えば、マーケティングチャネルのひとつに電子メールマーケティングがありますが、ここで電子メールマーケティングソフトウェアを使わなければ、このマーケティング活動だけでリソースのすべてを消費してしまいます。
とは言っても、ソフトウェアを導入する予算すらない場合もあります。幸いにも、例えば、Zoho Campaignsなどの無料から使えるソフトウェアがありますので、こういったソフトウェアを有効活用していきます。

1. 目標を明確にする
まずは、マーケティング活動で達成しようとする目標を明確にしなければなりません。目標を設定することで、限られた時間とリソースと予算の中で、目標に向かうマーケティング活動に集中できます。
目標を明確にするためのヒント
マーケティング目標を決めるのはなかなか難しいこともありますので、いくつかのヒントを紹介します。
- 整合性を保つこと
- マーケティング目標は、組織全体の目標と一致していなければなりません。そうしなければ、マーケティングチームと他のチームとの対立が生じます。
- 利害関係者の調整
- マーケティングとビジネス全体との整合性を保つには、他の部署や役員がマーケティング目標に賛同していなければなりません。もちろん、すべてを1人で行っている場合には調整不要ですが、1人企業でも、他社と共同でビジネスを行っている場合には、利害関係者間の調整が必要です。
- 測定可能であること
- 進行状況や効果を測定するために、測定可能な目標を設定します。「売上を20%増やす」といった曖昧なものではなく、「新規市場で新規顧客を10%増やし売上を20%増やす」などとし、加えて、これを実現する方法も明確にしなければなりません。例えば、市場開拓のための成長戦略を実行することで、新規獲得顧客数、市場シェアの増加、前月比増の売上を実現するなどという、詳細な条件を加味していきます。
- KPIの特定
- 適切な重要業績評価指標(KPI)を用いますが、多すぎると混乱しますので、マーケティング目標に関わり、かつ、ビジネスに最も影響を及ぼす主要な指標に止めます。Webサイトのアクセス(トラフィック)を10%増やすことが目標であれば、流入元を監視するだけでよいはずです。
2. 調査する
マーケティング計画を成功させるためには、市場と顧客の理解が必須です。
市場規模、競合他社、収益の可能性など、ターゲット市場について十分理解し、顧客について深く知っていれば、製品やサービスに適した顧客を見つけることができ、その顧客にリーチするための適切なマーケティング戦術を用いることができます。
そのため、市場と顧客を理解するために、調査を行います。
調査のヒント
市場や顧客を十分理解していると思っていたとしても、社内での理解を得るためには、調査をする必要があります。
- 市場を定義する
- 市場調査では、ターゲット市場や業界の特徴を理解しなければなりません。特に、市場がどのように変化しているのかに注目します。
- データ分析
- CRM(顧客関係管理)ソフトウェアなどを活用し、データに基づいてマーケティング計画を立てます。市場規模の把握や顧客のセグメント化などは、CRMソフトウェアを用いることで素早く分析することができます。
- バイヤーペルソナ
- 製品やサービスにとって理想的な顧客像を明らかにしなければなりません。そのためには、市場のセグメントごとに、バイヤーペルソナを作成するのが有効です。バイヤーペルソナは、プッシュ型あるいはプル型どちらのマーケティング手法を採用するかの決定にも役立ちます。
- 顧客セグメンテーション
- 顧客セグメントごとにマーケティング戦術を調整することができるので、やはりCRMソフトウェアを用いるのが有効です。記録するだけならExcelやGoogleスプレッドシートなどの表計算ソフトでもできなくはありませんが、時間も人員も足りない中小企業や小規模企業者では、少額をケチるメリットはありません。
3. マーケティングの原則に取り組む
あらゆるマーケティング計画には、マーケティングの4つの原則(マーケティングミックス、4P)が含まれます。従って、この原則に沿って、製品やサービスを販売するための戦略を作り上げていきます。
マーケティングの4つの原則とは、製品・価格・流通・販促です。「製品」は収益を得るために企業が提供するもの、「価格」はその製品に対して請求される金額、「流通」は顧客が製品を購入する方法、「販促」は製品を販売するためのマーケティング活動となります。
新製品を販売する際には、調査に基づき、価格をいくらにするか、顧客がどのように購入するのか、どのようにプロモーションを行うかを決めなければなりません。そして、これらの具体的な内容を、マーケティングの原則に基づいてマーケティング計画に落とし込み、戦略をテストし検証するための手段を決めていきます。
マーケティングの原則を生かすヒント
マーケティングの原則を実践するためのヒントを、4Pに基づいて紹介します。
- 製品(Product)
- 製品やサービスを本格的に売り出す前に、アーリーアダプターなど向けにテストをして、検証します。このテストは、ケーススタディとなりますので、製品やサービスの改善や、マーケティング資料の事例としても活用できます。
- 価格(Price)
- 価格戦略もまた、テストによって検証できます。割引や試用期間を設けて、顧客に提供した価値が高いか低いかなどの評価を収集します。製品やサービスに顧客が価値を感じるほど、価格を高くできます。
- 流通(Place)
- できるだけ簡単に製品やサービスを入手できるようにします。顧客にインタビューやアンケートなどを通じてテストをし、製品やサービスを手に入れたり使い始めるのに複雑な手続きが必要な場合は、改善します。
- 販促(Promotion)
- 様々なマーケティング戦術を少額の予算でテストをし、効果を測定します。テストをすることで、費用対効果がもっとも高い戦略に集中して予算を投じることができます。
4. ポジショニング戦略を確立させる
顧客に自社のビジネスをどのように受け取ってもらいたいのか、それをコントロールするためには、マーケティング計画を作成して実行する前に、ポジショニング戦略の構築が必要です。
ポジショニング戦略を確立させると、マーケティングと営業とが、顧客に対するマーケティングメッセージ、ブランドメッセージ、ビジネスメッセージを統一されたものとして市場や顧客に発信することとなります。
逆に、ポジショニング戦略を確立しなければ、一貫したメッセージを顧客に送ることができず、顧客を混乱させ不信を産み出させ、顧客に好き勝手にブランドイメージを作られてしまいます。
ポジショニング戦略を策定するためのヒント
顧客の心の中で、製品やサービス、あるいはブランドやビジネスのポジショニングが固まってしまうと、それを変化させるのはなかなか難しいこととなります。そのため、製品やサービスを提供する前に、ポジショニングを十分検討しなければなりません。
- ミッション
- 組織のミッションステートメントを確認します(なければ作らなければなりません)。どこよりも低価格で売りたいのか、世界で最も顧客を大切にしたいのか、気候変動に配慮して持続可能なライフサイクルを開発したいのか、まずはそこから始めて、ポジショニングのためにミッションとビジョンを確認します。
- 競合他社
- 競合他社がターゲット市場でどのようなポジションをとっているのか確認し、どのように差別化したいのか考えます。
- ポジショニングの検証
- つくりあげたポジショニングステートメントを、少数の顧客に適用して、反応を探り、改善していきます。
5. マーケティング計画を立てる
期間内に目標を達成するためのマーケティングや広告のタスクや、予算を管理していく上での関連コストをまとめ、マーケティング計画とします。計画には、マーケティングミックスやポジショニングの詳細も含め、バイヤーペルソナや顧客セグメンテーションに基づいたダイレクトマーケティング戦略など、具体的な戦術を明確にします。
マーケティング計画を立てるヒント
ステップ1から4を組み合わせてマーケティング計画を組み立てますが、その目標を達成するためのロードマップを作成するための、いくつかのヒントです。
- 予算と時間枠
- マーケティング計画を作成する前に、まずは予算と時間枠を決めます。事前に予算を決めておくと、どのようなマーケティング戦術を使えるかがわかります。また、新製品を発売する日が決まっているのであれば、発売日を中心にマーケティング計画を立てなければなりません。
- マーケティング戦術
- 有用なデジタルマーケティングが数多くありますので、あれもこれも詰め込みたいと思いがちです。しかし、中小企業や小規模企業者のリソースと照らし合わせるとそれは不可能ですので、当面の目標を達成するのに必要な戦術に絞るべきです。例えば、ロイヤルティプログラムの構築に時間を費やす代わりに、そのリソースを広告戦術に充てるということです。
- 計画管理ソフトウェア
- monday.com、Podio、Wrike、Asana、Basecampなどのプロジェクト管理ツールを使うのが効率的です。プロジェクト管理のドキュメントを手動で更新していくのは、収益に直接繋がらない作業に時間を費やすことになります。

6. マーケティング計画を調整する
時間をかけてマーケティング計画を作ったとしても、それが有効な計画かどうかは、実行してみなければわかりません。そのため、測定可能なKPI(重要業績評価指標)に基づいて、計画を調整していきます。
マーケティング計画を調整するためのヒント
マーケティング活動は、測定データがなければ続けていくことができません。計画を実行してより多くのデータを収集すれば、データを解析することで、継続的に調整していけます。
- データ不足
- マーケティング計画の最初には十分なデータがありませんので、必要なデータが揃った後に、マーケティング計画の調整をしていきます。
- ゆとりを持たせる
- マーケティング計画の変更に対応するために、計画には予めゆとりを持たせておきます。そうすると、調整が必要になった際に、時間に追われることがありません。
- 調整を前提とする
- マーケティング計画は、都度調整をしていくものだと認識しておかなければなりません。チームで行っている場合は、定期的に会議を設けるなどして、組織内での行動がばらばらにならないようにします。
最後に:小規模企業者のマーケティング計画
予算やリソースに限られた中小企業や小規模企業者の場合、市場シェア分析や財務分析を行う余裕もない場合が多く、経験から見積もりをして判断していかなければならないことが頻繁にあります。中小企業や小規模企業者のマーケティング戦略は、学習や改善の繰り返しを通して経験を積み、成功につなげていくのが本質だと考えて取り組むのがよいでしょう。