2021年の世界におけるEコマースの売上は、中国2兆7793.1億ドル(約305兆1071億円)、アメリカ8431.5億ドル(約92兆5593億円)、イギリス1690.2億ドル(約18兆5535億円)、日本1440.8億ドル(約15兆8161億円)、韓国1205.6億ドル(約13兆2340億円)となる見込みで、年々成長し続けています(Global Ecommerce Update 2021)。
先進国で唯一衰退している日本は、この先、IT後進国のまま韓国にぶち抜かされ、落ちぶれていく見込みですが、それでも、今のところはまだ世界のEコマース市場(4兆2800億ドル)の3%を占める巨大な市場となっています。
将来的には日本市場を見限るのが賢明ですが、フリーランス、個人事業主、一人社長のような小規模企業者は、何百億円何千億円と売上を上げようとは思っていないでしょうから、オンラインストアを始めて、15兆円の市場に参入するのは、十分魅力があります。
しかし、ECサイト、オンラインストア、ネットショップを構築して公開するだけでは、誰も訪れませんので、誰も買いません。そして、市場は拡大していますので、競争は激しくなっています。そのような中では、Webサイトへのトラフィックを増やし、人を集める努力をしない限り、収益目標を達成することはできません。
ブランド認知度を高め、Eコマースの売上を伸ばすことに、劇的に効果を上げる特効薬はありません。Eコマースのためのマーケティング計画を立て、地道なマーケティング活動を通して、ベストプラクティスとなるマーケティング戦略をつくりあげていく必要があります。
Eコマースマーケティングとは?
Eコマースマーケティングは、様々なマーケティングチャネルを通じて、顧客に製品やサービスを販売するビジネスを認知させ、行動を促す取り組みです。
言い換えると、ネットショップを知ってもらい、たくさんの人に訪れてもらい、訪れた人に買ってもらうようにする、それが、Eコマースマーケティングです。
(日本人は、もともと日本語にない外国語であれば、そのまま使えばよいのに、日本でしか通じないガラパゴス言葉にしてしまいます。「ECマーケティング」という日本語も日本だけで使われています。同様に、「ネットショップ」も日本でしか通じません。何を学ぶにしても、説明するにしても、本当にややこしくて面倒です。)
EコマースWebサイト、ネットショップというと、Amazonや楽天のような大規模な店舗を想像するかもしれません。つまり、様々な商品から選んでショッピングカートに入れて決済ができるWebサイトです。
しかし、何か製品やサービスをオンラインで販売していて、インターネットで取引しているのであれば、商品がひとつしかなくとも、ショッピングカートがなくとも、Eコマースであり、オンラインストアです。
そして、マーケティングキャンペーンが売上を上げることを目的にしているのであれば、そのマーケティングは、Eコマースマーケティングです。
Eコマースマーケティングで念頭に置くべきこと
Eコマースビジネスを成功させるためには、マーケティングキャンペーンを成功させなければなりませんが、マーケティングキャンペーンを成功させるためには、マーケティングの基礎となる要素を把握しておく必要があります。
1. 顧客について知る
顧客について知れば知るほど、説得力のあるマーケティング資料を作るのが容易になります。ここでの顧客とは、ターゲットオーディエンスですが、その顧客が抱えている悩み・問題と、それを解決するための製品やサービスに注目しなければなりません。
顧客の悩みを、それは、顕在的なものでも潜在的なものでも同様ですが、その悩みに共感することで、顧客は自分が経験した、あるいは経験している状況を思い出し、同じ経験をしないために、こちらの提案に行動を起こすようになるわけです。
だからこそ、マーケティングに着手する前に、バイヤーズペルソナをつくることが重要になります。ペルソナを作成することで、顧客がどのような人で、どのような悩みを抱えていて何を解決したいかを、しっかりと把握することができます。
2. 製品やサービスのポジショニング
ターゲットオーディエンスが決まると、製品ポジショニングもある程度定まります。ターゲットオーディエンスは特定の市場にいるので、ターゲット市場も判然とするからです。なお、製品ポジショニングにはポジショニングステートメントも必要です。
クライアントから受託する仕事について、自分が何ができるかをアピールするより、自分がどうクライアントの問題を解決するかをアピールすべきだということは、フリーランスとして長年活動している方はお分かりでしょう。
Eコマースも同様で、事業を継続するためには、顧客の問題をどう解決するかを強調すべきであって、「今すぐ購入」ボタンを目立つように配置すべきなのではありません。
7つのEコマースマーケティング戦略
ターゲット顧客層とポジショニングを考えた上で、効果的ないくつかのマーケティング戦略を紹介します。
1. 電子メールマーケティング
商品を注文する際には、必ず電子メールの提供が必要となります。商品が売れるたびに電子メールリストが充実していきますし、顧客リストとしてもっとも簡単に利用できますので、電子メールを活用した電子メールマーケティングをしないわけにはいきません。
電子メールは枯れた手段ですが、その有効性はまったく失われておらず、もっともROI(投資利益率)を生み出すチャネルのひとつが、電子メールです(emma)。
しかし、購入前の顧客にアプローチするには、購入前に電子メールを提供してもらわなくてはなりません。そのためには、顧客に事前同意して入力してもらうオプトインフォームが必要で、メールアドレスをフォームに入力してもらうには、説得力のある理由がなければなりません。
(※オプトインについて、広告宣伝メールを送信する場合には、特定電子メール法、特定商取引法が適用されます。)
製品の最新情報、教育コンテンツ、電子書籍、クーポンなど、ターゲットオーディエンスに価値のあるものと引き換えに、電子メールを提供してもらうのが有効で、電子メールリストが充実してきたら、リストをセグメント化してパーソナライズされたメッセージを送れるようにするのが効果的です。
ニュースレター(日本語で「メールマガジン」「メルマガ」)の購読を始めたり、購入の際に、例えば以下のような電子メールシーケンス(日本語で「ステップメール」)を始めることができます。
- 新規リストへのウェルカムシーケンスによるドリップキャンペーン
- トランザクションメールやかご落ちからのキャンペーン
- アップセルやクロスセルキャンペーン
電子メールマーケティングのヒント
- 信頼できるサービスを使う
- 電子メールマーケティングソフトウェアは、電子メールマーケティングキャンペーンが成功するかどうかを左右する重要な役割を果たします。セグメンテーション、パーソナライズ、自動化などの機能が備わっているかを確認して探します。日本製のものは、拡張性や他サービスとの連携で難がある場合が多いので、海外製のサービスから選ぶとよいでしょう。
- 魅力的なコピーを書く
- 電子メールの件名、本文、提案、CTA(Call To Action)などの書き方に注意します。顧客は大量の広告メールを受け取っている場合も多いので、無視されたり、最悪スパムとされます。
2. コンテンツマーケティング
コンテンツマーケティングは、販売するためではなくターゲットオーディエンスの関心を引き寄せるオンラインの素材、例えば、ブログ投稿、動画、インフォグラフィックなどを用い、製品やサービスについて顧客を啓蒙し、自社の強みを生かして業界の問題解決策を示してその分野の主導者になるソートリーダーシップを確立し、ブランド認知度を高めていく戦略です。
コンテンツは、顧客にとって価値をもたらすものではなければなりません。それによってブランドやビジネスへの信頼が増し、顧客との関係を構築していけます。
コンテンツマーケティングは、検索エンジン最適化(SEO)と併用すると、さらにブランドロイヤルティを強化し、認知度を向上させ、売上の増加に役立ちます。
コンテンツマーケティングのヒント
- 顧客に価値を提供する
- 誤字脱字や文法など細かい体裁よりも、顧客が関心を寄せる、顧客の問題を解決する内容のコンテンツを提供します。
- パフォーマンスを追跡する
- どういったコンテンツが顧客に注目されているかを知らなければ、顧客を理解できませんし、将来の有意義な結果も見込めなくなります。そのため、データを取り、検証することが必要です。
3. 検索エンジン最適化(SEO)
電子メールマーケティング、コンテンツマーケティングと同様に、高いROIをもたらす戦略が、検索エンジン最適化(SEO)で、この3つの組み合わせがEコマースマーケティング戦略の王道と言っても過言ではありません。
検索エンジンに認識されなければ、いくら質の良いコンテンツを提供し続けても、誰も見てくれません。
ただし、SEOをしなくとも、有料広告やアフィリエイト、SNSや電子メールでの宣伝で、EコマースWebサイトへの誘導を促してトラフィックを集めることはできます。
しかし、SEOの利点は、広告やSNSでこちらから働きかけなくとも、「自然検索トラフィック」の文字通り「自然」に顧客がやって来ることです。
そして、Webサイトに訪れる顧客は、検索エンジンで自ら積極的に情報を得ようとしていますので、期待通りもしくは期待以上のコンテンツを提供していれば、コンバージョンする確率が大きくなります。
検索エンジン最適化(SEO)のヒント
- キーワード調査をする
- 実際に顧客が検索していて、十分な検索ボリュームのあるキーワードをターゲットとして、コンテンツを作成することです。検索エンジン結果ページ(SERP)の1ページ目に掲載されるのが極端に難しいキーワードは、ターゲットにすべきではありません。そして、検索している顧客の意図を考えることです。「高性能ノートPC」で検索する人より、「ThinkPad X1 Carbon」のほうが、コンバージョン率が高くなります。
- 長文にする
- 商品ページであろうがブログであろうが、可能な限り長文にします。というより、顧客の求めるものを念入りに記述しようとすれば、結果として長文になります。Googleはユーザーに役立つコンテンツを評価しますので、評価されるコンテンツは、結果として、文字数が多い傾向になります。
4. 有料広告
検索エンジンマーケティング(SEM)で扱うPPC広告や、Facebook広告などのネイティブ広告、バナーやポップアップといったディスプレイ広告など有料広告は、SEOよりROIが劣ります。
ですので、長期的に見るとSEOのほうが優れているのですが、即効性に関しては優れた戦略で、有料検索広告(PPC広告)は、コンバージョン率も高い傾向にあります。
有料広告は、新規のリード獲得や、迅速に売上を上げたい場合に、有効で重要な戦略となります。
有料広告のヒント
- 広告を目立たせる
- あたかも自社コンテンツのように装うコンテンツディスカバリー広告は別として、コンテンツに馴染まない、目を引くクリエイティブにしたほうが、クリック率が高まります。顧客に無視されないために、インパクトのあるコピーを使うなど、工夫が必要です。
- ターゲットオーディエンスを常に意識する
- ターゲットオーディエンスを間違えるだけで、商品はまったく売れなくなります。広告プラットフォームでターゲットオーディエンスを設定する際には、パラメーターがバイヤーズペルソナと合致していることを十分に確認します。
5. ソーシャルメディアマーケティング
ソーシャルメディアマーケティングとは、Twitter、Facebook、Instagram、Youtubeなどのソーシャルメディアプラットフォームを使って顧客とつながり、ブランドを構築し、売上を伸ばし、Webサイトへのトラフィックを増やすことです。
ソーシャルメディアを使う目的は、ブランド認知度のためのみの場合もありますし、Webサイトへのトラフィックと販売促進のための場合もあります。また、カスタマーサポートのチャネルとして機能させることもできます。
ソーシャルメディアマーケティングのヒント
- 適切なSNSを選ぶ
- ターゲットオーディエンスのよく使うプラットフォームを使うべきでしょう。また、顧客が集まるのがInstagramであるか、Twitterであるかによって、発信方法も変わってきます。
- オーディエンスの心理を読む
- 人はソーシャルメディアを使うとき、大抵の場合は、楽しむために利用します。何かを買うために訪れるのではありません。だからこそ、オーディエンスの心理を読んで、お金を払っても手に入れたいという気持ちにさせることが重要です。
6. コンバージョン率の最適化(CRO)
どのようなEコマースWebサイトにとっても、コンバージョン率は、もっとも重要な指標のひとつです。
Eコマースの場合、コンバージョン率とは、Webサイトへの訪問者100人につき何人購入(コンバージョン)したかを示す指標です。
Eコマースの平均的なコンバージョン率は2%程度です(IRP)。つまり、Webサイトに訪れた100人のうち2人が商品を購入するということです。
商品を1日2個売りたい場合は、Webサイトを訪れる人が1日に100人いなければなりません。20個売りたい場合は1,000人です。
もし100人の訪問者に対して1人しか商品を購入していないのであれば、コンバージョン率の最適化(Conversion Rate Optimization、CRO)に取り組んで、コンバージョン率を2%に上げたいところです。もちろん、3%でも4%でも、CROを上げれば上げるほど、売上も伸びます。
コンバージョン率最適化のヒント
- クロスセルやアップセル
- カートに商品を追加したら、その商品に関連する商品を推薦するなどします。これによって、一人あたりの売上を増やすことができます。
- 人を登場させる
- 製品やサービスだけの写真や説明は、顧客に無機質な印象を与えます。顧客の声、カスタマーレビュー、それに、商品を実際に人が使っている写真や動画を全面に出すことで、親密さが増し、顧客は商品購入後の自分を想像できます。
7. カスタマーサービス・サポート
顧客の中には、長期間に渡って商品を使い倒した挙げ句に「詐欺だ」「騙された」「返金しろ」などと怒鳴り込んでくる厄介なクレーマーもいます。こういった極端な例に限らず、トラブルに効果的に対処するには、カスタマーサービス部門が必要です。
電話、電子メールなどの伝統的なチャネルの他に、会話形AIを導入した、デジタルアシスタントやチャットボットも検討してみてもいいでしょう。
少人数、あるいはフリーランスなど、一人でネットショップを運営する場合もあります。予算や人員リソースが足りず、カスタマーサポートに手が回らないこともあります。その場合は、FAQを充実させるなど、顧客が自分で問題を解決できるように促したり、有料のサポートも検討します。
セルフサポートを通じて顧客が自分で努力するようになると、むしろ顧客の忠誠心が高まる傾向があります。というのも、例えばAMEXの調査によると、顧客の6割が頼りにするチャネルは、Webサイト、モバイルアプリ、音声応答、オンラインチャットなどの、セルフサービスツールであり、いくつもの同様の調査結果がセルフサポートの優位を示しているからです。
カスタマーサービス・サポートのヒント
- 親しみやすさを考慮する
- 事務的な対応より親しみやすい対応のほうが共感を得られやすく、スムーズな問題解決に役立ちます。Zendeskの調査では、8割以上の顧客が求めるカスタマーサービスの好ましい対応は、応答の速さ、解決の速さ、親しみやすさで、マイクロソフトの調査では、顧客が考えるカスタマーサービスのもっとも重要な点は、知識豊富でフレンドリーな担当者と話すことです。
- 専門家を雇う
- RightNowによると、86%の消費者は、より良い顧客体験のために最大25%多く支払ってもよいと思っています。商品価格を高くしても、あるいは、充実したサポートのために追加料金を要求しても、それほど抵抗なく受け入れてくれるはずです。その分の収益で、カスタマーサービスの人員を雇うことを考えてもよいでしょう。
最後に
Eコマースとデジタルマーケティングは、相性の良い組み合わせです。
ここに紹介したEコマースマーケティング戦略とヒントは、完全なものではありませんが、これを手がかりに時間をかけて活用していけば、ネットショップ、オンラインストアを成長させ、Eコマースビジネスを成功に導くはずです。
フリーランスにとっては、様々な戦略を同時に行うことは困難ですので、様々な戦略を同時にすべて行おうとするのではなく、ひとつひとつの戦略を深堀りしつつ進めていくのが得策です。
Eコマースのデジタルマーケティング戦略を始める基礎知識を用いて、Eコマースビジネスを効果的に推進していきましょう。