会社員としてフルタイムで働いたことのある人であれば、仕事中に、「たまには気晴らしで外を散歩したい」と思ったことがあるかもしれません。理不尽な要求をしてくる顧客、ただ時間を無駄にするだけの無意味な会議、上司からのプレッシャー、付き合いでの飲み会にうんざりしたときには、「フリーランスで月収100万円」といった広告やYouTube動画が魅力的に思えてきます。
短期間で月収100万円を達成できるというのは、大抵の場合はウソです。利権のおこぼれをもらうために政治権力に媚びへつらうなら別ですが、時間をかけて努力してもなかなか高収入にたどり着けないのは、会社員と同じです。
内閣官房の調査によると、年収1,000万円以上はフリーランスのうちたった4%しかいません。ですので、「裕福な生活をしたい」といったように、高収入を主な動機としてフリーランスになるのはお勧めしません。「隣の芝は青い」ということです。コロナ禍で収入が減ったり仕事を失ったフリーランスも多くいます。

それでも私はフリーランスをやっています。というのも、私にとって、フリーランスとして働くデメリットよりも、メリットのほうが上回るからです。もしフリーランスとしての働き方が自分に合うようであれば、より幸せで満足の行く人生を送ることができるはずです。
フリーランスとは
企業に所属せず、独立した個人として働く人が、フリーランスです。自営業者、個人事業主、一人で活動する小規模企業者すなわち一人社長の法人、個人企業も含みます。
フリーランスとして在宅で働くための方法
「簡単に儲けられる」と喧伝されている怪しい仕事や、内職的な単純労働を除き、フリーランスとして生計を立てられる様々な働き方があります。以下はその一例です。
- 翻訳
- 英語や中国語など、外国語が堪能な人は、ビジネス文書、Webサイト、学術論文などの翻訳を行うことができます。当然ですが、学位や翻訳経験があるのとないのとでは、収入が大きく変わってきます。
- カスタマーサポート
- 地方都市では人材を安く雇えるため、大企業のコールセンターが置かれることが多いですが、雇用主が必要なトレーニングを提供するため、専門の知識や学歴は問わず、誰でもできる仕事です。その分、最低賃金程度にしかならず、長期間続けていくのは少々厳しい仕事です。
- テクニカルサポート
- 一方、コンピューターの専門知識や学士号を必要とするテクニカルサポートは、カスタマーサポートの2倍から3倍は稼げます。ただし、IT系エンジニアほどには稼げません。
- Web系の制作や開発
- 中小や大企業の一部は、Webサイトのデザインやメンテナンスに従業員の専任スタッフを置くことが多いですが、アウトソーシングする企業のほうが多く、仕事が潤沢です。Webサイト制作はそれほど稼げない場合もありますが、開発となると十分な収入が得られます。
- Web系以外のソフトウェア開発
- ITエンジニアは、フリーランスとして活躍している人も多く、プロとして仕事ができるようになるまでの習得難易度が高い分、稼ぎも多くなります。
- グラフィックデザイン
- グラフィックデザイナーは、バナー広告や商品のイラストなど、様々なクライアントのために仕事ができます。収入は、ITエンジニアより若干少ない程度です。
- ライティングや編集
- ライターやエディターも、引き合いの多い職種です。ライティングは文字数単位での報酬の場合が多く、Webコンテンツの場合は、文字あたり0.1円といった悪質な雇用主も多いので注意が必要です。1時間で1万文字書いて、ようやく最低賃金です。
- マーケティング
- マーケティングの分野は、検索エンジン最適化(SEO)、ソーシャルメディア、広報、広告など多岐にわたります。ですので、専門分野によって収入は異なりますが、総じて報酬は高めです。
他にも様々なフリーランスの職業がありますが、例えば、芸術系の職種はアーティストのWebサイトで言及しています。
求人サイトの中には、フリーランスや在宅ワークに特化したサービスもあります。例えば、クラウドワークス、ランサーズや、ITエージェント系のMidworks、ギークスジョブ、翻訳者向けのConyac、Gengo、建築系のスタジオアンビルト、営業系のSaleshubなどがあります。
英語でビジネスができれば、海外先進国のサービスもターゲットになりますので、選択肢はより多くなりますし、「死にゆく日本」より単価が高くなりますので、収入も増えます。
フリーランスのメリット
フリーランスの最大のメリットは、自由であることでしょう。いつ、どこで、どのように、どんな仕事をするかを、独断で決められるからです。
- スケジュールを柔軟にできる
- フレックスタイム制を導入する企業もありますが、フリーランスはもっと自由です。朝に起きるつもりだったけれども、気が変わって昼まで寝て午後から仕事を始めることもできますし、1時間で仕事をやめることもできます。労働時間を自由に決められます。ずっとデスクの前に座っていなくてもよいですし、昼寝をしたり、休憩時間も自由に取れます。子どもが熱を出しても、参観日に行くにしても、誰の許可を取ることもなく、勝手に休めますし、仕事の電話もメールも無視できます。
- 職場をコントロールできる
- 自宅が職場の場合、服装は自由です。スーツや制服を着なくてもいいですし、化粧をする必要もありません。何なら素っ裸で仕事をしても誰も咎めません。飲食も自由ですし、寝転がって仕事をしてもいいですし、あちこち歩き回っても、唐突に運動を始めても、誰にも嫌な顔をされません。隣に気を散らす同僚はいませんし、好きな音楽を聞いたりテレビを見ながら仕事ができます。庭先や喫茶店やファミレスで仕事をしても何の問題もありません。パソコンも机も椅子も好きなものを使えます。
- 顧客を選ぶことができる
- フリーランスを始めたばかりのときは、クライアントが向こうからやって来るわけではないので、顧客選択の自由は少ないかもしれません。しかし、一緒に仕事をしたくない人とは、仕事をしなくても構いません。例えば、すぐに怒鳴ったりする人や、不当な業務を押し付けてきたりする人や、安く買い叩いてくる人や、深夜や休日に連絡してくる人や、自分の倫理観に反するような人と、無理に関わる必要がまったくありません。
- 通勤時間を考えなくてよい
- 毎日の通勤が不要なので、ラッシュアワーのぎゅうぎゅう詰めで新型コロナの空気感染に怯える必要はありません。まったく外出せずに何ヶ月も自宅で過ごすことができます。自宅から職場まで徒歩3歩です。自宅に籠もるのが好きな人にはこれ以上の利点はありません。職場への行き帰りに何時間も無駄にしなくてよいので、それだけ仕事や他のことに時間を使えます。
- 職場の人間関係がない
- フリーランスの場合、職場につきものの些細や言い争いや権力争いが気になることがありません。差別主義者がつくった下らないジェンダールールに従う必要もありません。面倒な上司に怒鳴られることもないですし、酒の席に付き合う必要もありません。また、営業担当が軽口を叩いて取ってきた、格安で短納期の仕事で徹夜をすることもありません。一緒に仕事をする人を選り好みできるのです。
- 経費や控除のメリットを受けられる
- 名刺や販促資料、水道、ガス、電気などの水道光熱費、駐車料金、旅行費用などの旅費交通費、パソコンやスマートフォンなどの電子機器、家賃、固定資産、自動車など、自分で支払う必要がありますが、経費として落とせます。基礎控除、保険、年金、扶養、医療などの控除も受けられます。

フリーランスのデメリット
フリーランスの日常は、自由である反面、確実性に欠けるという欠点があります。誰のために働いているのか、何をしているのか、いくら稼いでいるのか、仕事があるのかないのかなど、仕事に関することが頻繁に変わるのが、フリーランスの日常です。会社が決めた快適なルーチンは存在しません。
- 収入が不安定
- フリーランスは、会社員のように定期的に給料が振り込まれることがありません。フリーランスの多くは、仕事が少なかったり、まったく仕事がない期間を経験しているはずです。雇用の保証がありませんので、クライアントに恵まれて安定した収入がある人でも、突然収入が途絶えることがあります。会社員でもリストラなどで仕事を失うことがありますが、フリーランスは、頻繁にリストラと同じ状況に陥ります。
- 福利厚生がない
- 会社員は、国民年金、厚生年金、企業年金と3階建ての充実した年金や、各種保険など福利厚生に恵まれていますが、フリーランスは、基本的に国民年金と国民健康保険のみです。しかも、会社が折半してくれることがありません。全額自己負担です。有給もありません。傷病手当金も、出産手当金も、育児休業給付金もありません。その分、予算管理をシビアに行う必要があります。
- 税金の管理をしなければならない
- 年金保険と同様に、税金も自分で管理しなければなりません。親切に天引きしてくれる雇用主はいません。財務面も勉強し、把握し、処理しなければなりません。例えばWebデザイナーは、クライアントから依頼されたWebデザインの仕事だけをしていればよいということはないのです。
- 責任が重い
- 会社員の場合、基本的に割り当てられた業務を遂行すればよいのですが、フリーランスの場合はそうはいきません。何をすべきか決めて、何をするかは、自分で決めなければなりません。クライアント案件をするだけではなく、顧客獲得の営業をしたり、マーケティング戦略を練って実行したり、クライアントと交渉したり、プロジェクトの計画を立てたり、あらゆる仕事の責任をすべて負わなければなりません。誰も教えてくれないので、独力でなんとかしなければならないのです。
- 社会とのつながりが希薄になりがち
- 隣の席には誰もいません。何気ないおしゃべりをしてくれる人はいません。フリーランスの人は、一日中、誰とも喋らず、誰とも顔を合わせず、自分ひとりだけで過ごすことが多くなります。もちろん、夜や週末に誰かと合う約束をしたり、SNSで誰かとつながったりすることはできますが、毎日顔を合わせるのとは根本的に異なります。
- ワークライフバランスが実現できない
- ワークライフバランスの実現はフリーランスのメリットですが、在宅の場合はうまくいかないこともあります。何ごとも先延ばしにしがちで、だらだらと時間を過ごしがちで、時間外労働をしがちです。タイムブロッキングを活用するなどのタイムマネジメントが必要です。家族と過ごしている人は、家の仕事を押し付けられたり、気づいたら洗濯物が溜まっていたり、コーヒーを飲みすぎたり、曜日の感覚をなくしたり、猫が仕事の邪魔をします。

フリーランスを続けるために必要なこと
フリーランスを続けて成功する条件は、最低限、メリットがデメリットを上回らないとなりません。独立心が強く、独りで仕事をするのが大好きで、重い責任を背負える人は、フリーランスという働き方に満足するはずです。
ここでは、フリーランスに必要な資質をいくつかご紹介します。
- 高度な技術を身に付けられる
- 何よりもまず、自分の専門に必要な技術や知識を身に付けなければなりません。一度もデザインをしたことがないのに、フリーランスのグラフィックデザイナーになることはできません。例外的に、クライアントから訓練を受けられることもありますが、大抵は、誰の助けもなく自分ひとりで勉強し続け、練習し続け、新たな技術を身に付けていかねばなりません。
- 自己鍛錬できる
- ひとりっきりで仕事をしていると、会社で仕事をしているときよりも気が散ります。ですので、目の前の仕事に集中できなければなりません。誰に言われずとも、上司がいなくとも、自分で自分の目標を設定し、目標を達成するための意欲を保ち続けなければなりません。
- 自己主張ができる
- ただ待っていても、誰も仕事を持ってきてくれません。自分で顧客を探し、アピールし、仕事を獲得していかなければなりません。自分で自分の給料を決めて、自分を安売りしないようにしなければなりません。
- ビジネスを組織化できる
- フリーランスは、仕事のあらゆる部分を自分で管理しなければなりません。スケジュールを立て、納期までに仕事を終わらせ、請求書を送り、着金を確認し、税金や保険料を支払い、運転資金がショートしないように気を使い、将来の資金計画を立て、マーケティング計画を実行し、新たなビジネスを模索し、専門分野以外も勉強し続けなければなりません。
- 経済的に余裕がある
- フリーランスを長年続けている人でも、収入が途切れる時期が必ずあります。仕事をせずに生活していけるだけの資金を、半年から1年分は確保しておいたほうが安全です。間違えても、手持ちの資金がない状態でフリーランスの仕事を始めるべきではありません。ただし、一緒に暮らす安定した収入のあるパートナーがいる場合は別です。現代社会に「大黒柱」「主人」などという概念は存在し得ないのですから。
- 打たれ強い
- 「不安定な仕事だ」とか「会社じゃないのか」とか、軽蔑してくる人もいます。また、圧倒的に成功しているフリーランスを見聞きして、劣等感を抱くかもしれません。他人の言うことや他人の状況は気にせず、自分の信念に沿って自分の仕事をやり続ける勇気が必要です。自分の仕事や生活に満足していれば、他人のことなどどうでもよいのです。
フリーランスのためのツール
もともと持っている資質や能力、学んだ技術や知識の他に、フリーランスの生活の様々な面を支援してくれるツールがあります。専門分野に役立つものもありますし、会計管理、時間管理、プロジェクト管理、生産性向上のためのツールなど、様々な方面に役立つものもあります。
アメリカには、規模が大きく利用価値のあるFreelancers Unionがありますが、日本にも小規模ながら、賠償責任保険などの保険に加入できるフリーランス協会という団体があります。保険はフリーランス協会を通さなくとも入れますし、特に必要がないので私は加入していません。
以下にいくつかまとめて紹介します。
- 税金
- 確定申告はExcelなどでできなくもないですが、専用のソフトウェアを使ったほうが効率的です。弥生、マネーフォワード、freeeが代表的です。私は以前は弥生を使っていましたが、時間と労力を使うので、今では会計事務所に任せています。個人事業主は必ず青色申告にします。そうしないと、最大限の控除となりませんし、純損失の繰越しもできません。
- 会計
- 弥生、マネーフォワード、freeeは請求書、見積書、納品書もつくれます。これらをGoogleスプレッドシートなどでつくっている人もいますが、記録に残して会計にも反映させたほうが便利です。機械的で事務的で頭を使わない作業は、できるだけ自動化したほうがよいです。オープンソースのGnuCashを使うという手もあります。
- 契約
- 業務委託契約書や秘密保持契約書などは、テンプレートをつくって使い回すようにします。オンライン電子契約サービスのe-sign、クラウドサイン、Adobe Sign、DocuSignなども便利に使えます。
- 予算
- フリーランスの収入は不安定ですので、しっかりとした予算を立てることが大切です。収入が多いときに貯金しておくことで、収入が少ないときに、その貯金で乗り切ることができます。家計簿アプリを使ってみるとよいかもしれません。
- Webサイト
- 商売に取り組んでいる以上、Webサイトは必須です。一度作って放置するのではなく、Webサイトをマーケティングに生かしていったほうがビジネスの幅が広がります。簡単に作成できるWebサイトビルダーは各種ありますし、将来性を考えてWordPressを使うという手もあります。
- 健康
- 健康保険は強制加入ですので外すことはできません。年金も保険料も税金も上がる一方で大きな負担になりますが、個人に厳しい日本社会では、無関心でいたり無批判だと、すなわち現状を肯定していると、一方的に「吸い上げ」(安倍氏)られて、ますます生活が苦しくなるだけです。
- 老後
- 老後は年金だけでは生活できませんし、フリーランスには退職金がありませんので、自力で生活資金を調達しなければなりません。小規模企業共済制度や個人型確定拠出型年金くらいしか利用できる仕組みはないので、米国株に投資したり、未来のない日本円ではなく米ドル預金で資金を確保しておくのも手です。
最後に
フリーランスとして働くのは、決して理想的な働き方とは言えません。フリーランスの仕事には不安が常につきまといます。しかし、好きな時に、好きな場所で、好きなように仕事ができる自由は、フルタイムの会社員には叶わない夢と言えます。そして、それだけのためにフリーランスとして生きていくのは、価値のある生き方だと思います。
フリーランスとして働きたいと思っていても、フリーランスになることに不安があるのであれば、副業としてしばらく試してみてもよいでしょう。顧客リストづくりをしてみたり、仕事を引き受けて、ひとつのプロジェクトにかかる時間を計測するなど、重要な事柄を少しずつ確認することができます。そして何より、実際に体験することで、自分に合うかどうかの確認ができます。
もしフリーランスが自分に合っているようであれば、フリーランスという働き方で在宅ワークをするのは、幸せな人生を送る手段として相応しいものでしょう。