販売フレームワークBANT

販売プロセスにおけるBANT販売フレームワークの活用法

BANTは、販売プロセスにおけるリードの適格性を確認するための手法のひとつです。営業担当者は、このプロセスがどのように機能するのかを理解することで、より良いリードを獲得し、売上につなげることができます。

世界中のすべての人が、自分や自社の製品やサービスを買えるだけの資金があり、ぜひとも欲しいと思っていて、導入すれば業務や生活の悩みが解消されるとしたら、どんなに素晴らしいことでしょう。しかし、残念ながらそうではありません。

だからこそ、ある人に声をかけるべきか、それともその人を見限って別の人に声をかけるべきかを見極める作業が重要なのです。

自分や自社と取引してくれそうなリードや見込み客で販売パイプラインを埋めるためには、最初の段階で人を見定める目を持つことが必要です。

BANTによるアプローチは、時間や費用の無駄になるリードを排除し、自社に合った見込み客に集中できるようにするための、顧客獲得プロセスの方法論です。

BANTとは?

BANTは、Solution identification desktop reference guide (IBM)で初出の、オポチュニティ(販売機会)を判別するための、販売プロセスを効率化するためのフレームワークで、「Budget」「Authority」「Need」「Time frame」の頭文字を繋げた頭字語です(BANTについては以下をご参照ください。BANT opportunity identification criteria)。

IBMのリファレンスガイドでは、オポチュニティの判別に利用されていますが、リード、プロスペクト、オポチュニティいずれにも使えます。購入の可能性が少ないリードに時間をかけるのはお互いに不幸ですので、できるだけ早い段階で、購入する可能性が高いか低いかを判定すべきでしょう。

BANTの基準

前述の通り、BANTの販売プロセスは4つの基準に分かれています。それぞれ何を表しているかだけでなく、どのような戦略を持つべきかを知ることが重要です。

1. 予算(Budget)

BANTフレームワークでは、まず第一に、リードや見込み客が製品やサービスを購入できるかどうかを考えます。これは、高価格商品を販売する場合に特に肝心で、低価格商品の場合には気にする必要はありません。

月300円のサブスクリプションサービスを提供しているのであれば、購入したいと思っている人が、なんとか方方から300円をかき集めるということはないはずですから。

以下の質問は、予算にかなうかどうかを判断するのに役立つ例です。

この製品を導入する予算を確保していますか?
特にB2Bの場合、予算の確認は必須です。現在購入できる予算がない、あるいは近々で購入予算を確保できるのでなければ、簡単に見込み客とはできません。
予算以外の不安要因が何かありますか?
予算はあるけれども、製品やサービスに対して、あるいは社内において、懸念事項がある場合があります。例えば「競合製品のほうが優れているのではないか」「会社の評判がよくない」「直近では必要性に疑問がある」などの反対意見を抱いており、これを解消するには、不安要因を引き出すとともに、それを打ち消す対応策を用意しておくことです。

2. 権限 (Authority)

強力なセールススキルを持っている人でも、購買権限のない人に時間を割くのは時間の無駄になるかもしれません。

これは、例えばWebサイト構築のような受託案件の構築フェイズでよくある、担当が意思決定者の要望を把握しておらず、担当の要件通りに構築しても、突き返されて何度も作り直しをさせられる状況に似ています。

こういった状況に陥らないためには、相手の権限を明確にするために、いくつかの質問をする必要があります。

他に打ち合わせに加わるべき人はいますか?
キーパースンを会議に同席させなければなりません。でなければ、「誰其さんと相談して、また連絡します」と言われて、会議が終わってしまうかもしれません。そうなってしまうと、その相手から二度と連絡が来なくなってしまう場合がよくあります。
御社ではどのようにして予算を決定していますか?
この質問は、セールスの障害となっている他の意思決定者を特定するのに役立ちます。その人を会議に同席してもらい、反対意見を引き出すようにします。

3. 必要 (Need)

購入する予算があることを確認し、意思決定者と話ができたら、相手が製品やサービスを実際に必要としているかどうかを確認します。

相手が今はまだ製品やサービスを必要としていないと思っていても、いくつかの質問を通して、潜在的に必要性が存在するのに気づいてもらえたり、興味を持ってくれることもあります。

(製品やサービスが解決する)〇〇に関して最も苦労していることは何ですか?
製品やサービスが解決することのできる問題から生じる苦痛を、解消すべきだと確認してもらうために、この質問は有効です。結果、こちらから製品やサービスを売り込まなくとも、相手が自分に製品を売り込むことになります。
問題を解決するために何をしましたか?
相手が問題解決のためにとった過去の行動を理解することで、次に求めている解決策を予測することができ、その解決策として自社製品・サービスを位置づけることができます。

4. 時間枠 (Time frame)

「予算」「権限」「必要」の3要素が揃ったとしても、緊急性がない場合は、半年あるいは1年以上の交渉になることもあります。早急に導入したほうがよいことを証明し、納得してもらうことができるのであれば、契約を早めることもできます。

以下の例のような質問をして、今後の方針を定めていきます。

どのくらいの期間で解決したいですか?
状況の緊急性を把握するための質問です。今すぐにでも買いたいと思っているのか、割引などの特典を付与することで、意思決定期間が縮まるのかといった、何らかの緊急性を導入する必要があるかなどを探れます。
今後の四半期に、この問題がそのままの場合、どのくらいのコストがかかるでしょうか?
自分自身で考えることで危機感を持ってもらい、相手に必要性を理解してもらいます。解決策を投じなければ数百万円の損失になると認識できれば、製品やサービスの導入に前向きになる可能性が出てきます。

成功のためのBANT活用

BANTは、見込み客を絞り込むための優れたリード管理手法ですが、その効果を最大限に発揮するために、これを採用する際にはいくつかの注意点があります。

1. 繊細な扱いが必要

BANTはどちらかと言うと販売者側、営業担当者側の立場に立ったフレームワークです。相手に質問する際は、不快感を与えないよう、十分な繊細さを持って注意深く取り扱う必要があります。

繊細に扱うヒント

一般的な営業担当者であれば、いきなり質問攻めにすることはないでしょうが、質問するのによい機会が見つからないこともあります。

営業担当が、販売ノルマだけを重視するばかりに、買わせるために一方的な話ばかりして、うまいこと言いくるめて相手が根負けする形で購入させても、顧客の心にはわだかまりが残り、顧客ロイヤリティに悪影響をもたらします。

営業担当が販売プロセスだけに責任を取り、購入後は責任を取らなくてもよい仕組みを採っていると、会社は長持ちしません。従って、営業担当の責任範囲をカスタマーライフサイクル全体に拡大するとともに、顧客とは双方向の会話をすべきです。

フリーランスや一人会社で、セールスやマーケティングを外注していたりパートナーに任せている場合は、特に営業やマーケティング担当に多額のインセンティブを与えている場合は、特に注意が必要です。カスタマーライフサイクル全体に責任を持たない人と仕事をしなければならないときは、最低限の報酬にしなければなりません。

BANTの質問は双方向の対話を考慮して組み立てる必要があります。相手が抱えている問題に興味を持っていることを会話の中で自然に示します。

2. 予算は大抵柔軟に決まる

「予算がありません」という返答は、よく経験する反論ですが、相手の本音は「あなたの製品やサービスに予算を出すだけの価値がわからない」ということです。

どうしても手に入れたいと思えば、人は予算を多少超過しても、買ってしまうものです。企業も個々人の集合ですから、企業がどうしても欲しいと思えば無理をしてでも購入します。

予算の反論をかわすヒント

500万円の前払いを望んでいなければ、半額前払い、あるいは全額後払い、あるいは、毎月払いにするなど、相手の負担を軽減する方法がないか検討します。

前述のように、製品やサービスの価値証明が不十分のために契約が成立しない場合は、相手の「必要(Need)」をもう一度探ってみます。そうすれば、製品やサービスが相手の問題にどのように対処できるかの説明をするチャンスが、再び巡ってきます。

必要性を十分に汲み取っていないことが原因の可能性もあります。相手が問題を抱えていることに気づいていない場合はそれを明らかにしたり、問題に気づく知識を共有していきます。

例えば、ある税理士が、自身で会計処理をしている年収500万円のフリーランスのITエンジニアと話をする機会があったとき、2023年から始まるインボイス制度の情報を共有するとします。

消費税の納付を免除されていたフリーランスも消費税を納付しなければならなくなり、50万円程度の減収が予想されることを知ることになったエンジニアは、隠れた問題に初めて気づき、苦痛を感じます。そこで税理士は、そのために税金をどのように取り扱うのかよいか、会計処理はどのようになるのかなどをアドバイスすることができるでしょう。

また、そのエンジニアは、この問題を解消するために、黙って制度に従う道の他に、抗う道があることにも気づきます。

「どうにもできない政治のことなど考える暇があったら、自分でなんとかできるビジネスのことを目一杯考えたほうがいい」などと言って、足を引っ張る権威主義者の仕事仲間や取引先に妨害されますが、収入が低い人ほど負担が重い消費税の減税や廃止を主張している政党や、インボイス制度に反対する政治家が誰かを調べて、滅多に機会のない投票に行きました。

エンジニアはこう思ったのです。

「たった数時間や数日間、政治や社会について調べて考えて行動しなかったばかりに、毎年50万円をこれから30年間支払って1,500万円を溝に捨てるのは、あまりに馬鹿げている。支払った1,500万円が自分や自分の子供のために使われるのならいいけれど、今の日本にそんな希望はないじゃないか。」

※社会の仕組みを決められるのは(今のところはまだ)我々市民ですが、社会の仕組みを正常に保つためのメンテナンスを怠っていると、ビジネスの仕組みを正常に保つのも困難になり、成功はどんどん遠ざかります。

この税理士の失敗は、自分の力で問題を解決できる可能性のある選択肢を示さなかったことです。税理士は見込み客の信頼を獲得できず、この先エンジニアに仕事を依頼される可能性は、絶望的にほぼ皆無となります。

3. BANTの代替策を検討する

BANTは有望なリードを獲得したり、リードの適格性を判定するのにある程度有効ですが、他にも検討に値する方法論があります。

一部ですが、例えば以下のようなものです。

ANUM

1. Authority(権限)
間違った人と接触して長い時間対応しないよう、意思決定者を明確にする。
2. Need(必要)
必要性や課題について掘り下げ、解決策の構築に焦点をあてる。
3. Urgency(緊急)
問題を解決することが、どれだけ重要かを判断させる。
4. Money(資金)
信頼を築いたところで、予算について議論する。

N.E.A.T. Selling™

1. Needs(必要)
見込み客のコアニーズは何か。相手の問題が何であり、どういう苦痛を感じており、なぜその苦痛を解消することが、相手にとっても相手の組織にとっても重要かを明確にする。
2. Economic Impact(経済的影響)
解決策の実装によって、経済的影響がどのように好転するのかを明らかにする。
3. Access to Authority(権限へのアクセス)
誰が購入決定権を持っているか。その中で誰が最も購入決定に影響を持つチャンピオン(有力者)かを把握する。
4. Timeline(時間枠)
製品やサービスの購入を決定するまでのスケジュールはどのようになっているか。どのようにスケジュールを組み立てるべきかを理解する。

FAINT

1. Funds(資金)
製品やサービスを購入するだけの財政的余裕があるかを調べる。
2. Authority(権限)
資金の使い道を決定する権限を持つのは誰かを明らかにする。
3. Interest(関心)
製品やサービスが何を実現するか、今より良い状況になる方法は何かに関心を持たせる。
4. Need(必要)
解決できる潜在的な必要性を明らかにする。
5. Timing(時機)
購入意向とそれを現実のものにするための時間枠を確定させる。

GPCT,BA,C&I(GPCTBA/C&I)

1. Goals(目標)
リードや見込み客が達成したい、あるいは達成する必要のある、定量可能な目標は何かを明らかにする。
2. Plans(計画)
目標を達成するための計画は何か、計画が失敗した場合のバックアップ計画は何かを設計する。
3. Challenges(克服)
目標を達成するための課題を克服するために、どのように助けられるかを議論する。
4. Timeline(時間枠)
いつ目標を達成して問題を解消することができるか、そのためにいつ行動すべきかを明確にする。
5. Budget and Authority(予算と権限)
目標を達成し、計画を実行し、課題を克服するのに支援できるとして、必要な対価を用意できるか、また、資金を用意できるのは誰かを知る。
6. negative Consequences and positive Impications(否定的結果と肯定的影響)
製品やサービスは、目標を達成しない場合の悪影響を軽減するのに役立つか、また、目標を達成した場合の好影響をさらに高めるものかを検討する。

MEDDIC®、MEDDPICC®

Meric(指標)
経済的利益を得るための、定量化した潜在利益の指標を作成する。
Economic buyer(意思決定者)
発注書を発行できる意思決定者とやりとりする。
Decision process(決定プロセス)
購入決定までのリードや見込み客の社内プロセスを明確にする。
Decision criteria(決定基準)
リードや見込み客の、購入を決定し、選択するための基準を知る。
Paper process(書類作成プロセス)
法務やセキュリティなどに関わる調達プロセスを考慮する。
Identify pain(苦痛の特定)
製品やサービスを必要とするリードや見込み客が抱えている問題から生じる苦痛を、深く理解する。
Champion(有力者)
自社の解決策に最も好意的なリードや見込み客の有力者を特定する。
Competition(競合)
並行して検討している、他社、社内開発、現状維持などの代替案に対処する。

営業を本業としているならば、BANT含め様々な販売のフレームワークを暗記しており、体得しているはずですが、先ほどのフリーランスのITエンジニアですと、なかなかそうもいきません。

フリーランス・個人事業主、一人社長は、事業運営に関する一部始終を把握しなければなりませんので、販売フレームワークも頭に入れておくべきでしょう。

代替案を検討するヒント

どのような企業でも販売サイクルを設計しているでしょうが、その中の販売フレームワークのプロセスを自社に適したものにつくり上げることで、売上予測の精度を高めることができます。

自社のことは自分が一番よく知っていますので、ビジネスにおいて何を重視するかを最優先とし、プロセスを選定し、あるいは組み合わせて使います。最も重視するのが顧客の問題解決なのであれば、そこから始めます。

いくつかの手順を並行して試すと同時にパフォーマンスを追跡し、それぞれのプロセスで獲得したすべてのリード、見込み客のうち、どのプロセスが最も有効かを確認します。

BANTで避けるべきこと

BANTを利用する際に気をつけなければならないことがいくつかあります。

1. 無遠慮な質問をしない

前述のように、BANTの答えを得るために無礼な質問をすることは避けたいものです。自社の都合を優先せず、お互いに歩み寄って問題解決に協力し合います。

そのためには、想定されるあらゆる場面の会話を練習しておくことです。

2. BANTに頼りすぎない

営業に万能のアプローチはありませんし、時とともにリードの求めるものは変わっていくものです。

必ずBANTに沿う質問をしなければならないことはありません。最終的にロイヤルカスタマーになってもらうことが営業活動の目的です。

3. BANTの欠点を知る

今日では、顧客は営業担当者に行き着く前に、自分が何を求めるか知っていて、購入適格性を営業担当者が判定する必要がなくなってきています。

世代が若くなるにつれ、問題解決にセルフサービスを好む傾向となり。Zendesk社の調査によると、特にZ世代では、4人に3人がセルフサービスを選択しています。

MaKinsey社の調査によると、B2B購入者で営業担当と話したいと考えるのは20~30%に過ぎず、99%がセルフサービスモデルで購入するとまで答えています。

現在では、営業担当者は、製品やサービスを売り込むよりむしろ、コンサルタントのように問題を解決することが求められています。

自社の製品やサービスが顧客の苦痛を解消できないと分かれば、無理に販売を進めるよりも、むしろ他社を紹介したほうが、顧客のためになります。

顧客選定プロセスを決定する

営業担当の仕事は、製品やサービスを売ることではなく、リードや見込み客や顧客と、良い関係を保ち続けることです。

このように考えれば、販売方法を学べば、あとは人間性の問題です。すでに専門家が開発した方法を、自分に合わせて手直ししていくだけです。

芦屋 十貴夫

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あしやときおと申します。Webプログラミング、Webデザイン、マーケティングを生業としています。