アーティストにとって、Webサイトの制作や維持は、芸術作品の制作に比べると、どうでもよいものでしょう。しかし、芸術家と言えどビジネスをしなければなりませんので、広く知ってもらうためのマーケティング販促に用いるWebサイトは、なくてはならないものです。
アーティスト活動をするにしても、芸術創作を職業にしていたり、趣味でも取り組んでいたりするでしょうが、そのジャンルは様々です。
例えば、版画家、彫刻家、造形作家(モデラー)、陶芸家、工芸家(クラフトデザイナー)、画家、書家、建築家、写真家(フォトグラファー)、宝飾家、篆刻家、染織家、デザイナー(インテリアデザイナー、ガーデンデザイナー、空間デザイナー、照明デザイナー、ディスプレイデザイナー、インダストリアルデザイナー、衣装デザイナー、家具デザイナー、玩具デザイナー、プロダクトデザイナー、Webデザイナー、エディトリアルデザイナー、キャラクターデザイナー、グラフィックデザイナー、ブックデザイナー、フラワーデザイナー、ヘアーデザイナーなど)、メイクアップアーティスト、ネイルアーティスト、などなど……。
そのジャンルが何であろうと、Webサイトは自分の作品を紹介できる場で、Webサイトがあることによって、未知の顧客に見つけてもらえたり、作品を購入してもらうこともできるようになります。
芸術家であり表現者である自分自身のためにWebサイトをつくるのは、インターネットの技術に精通していなくとも、問題なく可能です。ここでは、その方法をご紹介します。
アーティストのWebサイトを作るには
アーティストのWebサイトをつくるには、CMS(コンテンツマネジメントシステム)を使います。CMSを使うのは、専門の知識がなくとも、容易にWebサイトの作成やカスタマイズができるからです。
誰にも使いやすいCMSは、Webサイト構築を誰かに依頼するよりも低コストで利用できます(が、数十万円~数百万円の潤沢な予算がある場合は、アート制作の時間を確保するために、専門家に依頼するほうがよいかもしれません)。
ポートフォリオに適したCMSを使い、以下のステップのとおりに進めれば、経験やスキルに関係なく、思い通りのWebサイトを構築できます。
1. Webサイトの目的を明確にする
まずは、Webサイトをつくる目的を決めます。作品のポートフォリオとして使いたいのか、作品を販売したいのか、告知などのマーケティングを目的にしたいのか、などです。自分が成し遂げたい目的によって、どのような機能が必要かを決められ、目的に合ったCMSを絞り込むことができます。
目的明確化のヒント
自分の作品を広く紹介したいというのは簡単に思いつくかもしれませんが、他を考えてみると、いまいち思いつかないかもしれません。そういうときは、以下のヒントを参考にするとよいでしょう。
- 調査する
- 自分の分野あるいは隣接分野で、人気のあるアーティストのWebサイトを調査します。そうすれば、自分のWebサイトをどのようにするのがよいかのアイデアを生み出すことができ、アーティストのWebサイトを魅力のあるものにするヒントを得られます。
- コンテンツや機能をリストアップする
- Webサイトに必要なコンテンツや機能を、マインドマップツール、Microsoft Office、Googleドキュメントやスプレッドシート、テキストエディタなどを使ってリストアップします。様々なコンテンツや機能がリストアップできるでしょうが、Webサイトの最初のバージョンを早くリリースするために、優先順位をつけます。
- 小さく始める
- 最初はあれもこれもと詰め込むのではなく、可能な限りシンプルで機能を限定したWebサイトから始めます。そうすれば、たとえそれが理想に遠くとも、すぐに公開することができます。Webサイトが公開された後に少しずつ手を入れれば、望む形にしていけますので、最初から完璧なものにしようとしないことが肝心です。
2. CMSを選ぶ
目的を明確にしたら、次にCMSを探します。目的に沿った機能を実装できるか、そして、予算をどの程度確保できるかによって、使えるCMSが決まります。後ほどいくつかCMSを紹介します。
CMS選定のヒント
アーティストのWebサイトを構築するためには、適切なCMSの選定が不可欠です。以下のヒントを参考に、CMSを絞り込んでみてください。
- 予算を決める
- 初期費用、ホスティング費用、マーケティング費用をそれぞれ考慮します。初期費用には、ドメインの購入も含めます。
- 作品を販売するか決める
- 作品を販売するには、Eコマース(EC)の機能が必要です。ショピングカートが使えるか、希望の支払い方法に対応しているかを確認して、CMSを選定します。
- テンプレートを利用する
- すぐに使い始めることができるように、優れたCMSには様々な要件に合わせたテンプレートが用意されています。アーティストの場合は、作品を魅せることができるシンプルなテンプレートが適しています。
- マーケティングを考慮する
- 電子メールマーケティング機能やニュースレター機能が使えるCMSを選ぶとよいでしょう。マーケティング分析ができれば理想的です。
3. Webサイトのコンテンツをつくる
次に、作品の写真やテキストを用意し、Webサイトで使うコンテンツをつくります。
そして、目的に応じて必要な機能やセクションを組み込みます。例えば、展覧会の情報を掲示して人を集めるためには、日時や場所を表示できる「お知らせ」ページや「イベント」ページが必要になるでしょう。
自分の作品素材以外に、ロゴや、各所に挿入するイラスト、フォントなども考えます。
コンテンツ作成のヒント
アーティストのWebサイトを構築するには、コンテンツの組み立て方にも工夫が必要です。ここでは、そのヒントをご紹介します。
- ブランドを明確にする
- Webサイトは、ブランドや作品を世界にどのように発信するかを表現したものです。Webサイトの目的やコンテンツ、デザインのすべてが、アーティストとしての自分を表現するために連動していなければなりません。すなわち、ブランドポジショニングを明らかにするということです。
- CMSの制限を考慮する
- 例えば写真を撮影してファイルをアップロードする場合、ファイルの形式やサイズに気をつけます。対応していないファイル形式だったり、ファイルサイズが大きすぎると、アップロードできません。Photoshopなどの画像加工ソフトを普段から利用している方は、それを使って加工するとよいでしょう。
4. Webサイトを構築する
Webサイトを構築するのは難しくありません。選定したCMSは、感覚的に使いやすく作られている場合が多いですし、マニュアルもあります。
もちろん、求める機能やCMSによって手順は変わります。例えば、Google検索などで多くの人に訪れてもらうために、検索エンジン最適化(SEO)を採り入れるなどです。
SEOとは、例えばアーティストのWebサイトを探している人が、Google検索などの検索エンジンを使って検索したときに、検索結果ページ(SERP)の上位に表示されるようにする技術のことです。
広告費を投じて検索エンジン結果ページに表示させるSEMもできます。これは、資金が潤沢で、投じた広告費より売上が多い結果が出るならば、考慮してもよいでしょう。
Webサイト構築のヒント
Webサイトを構築するのは、最初は難しいとか面倒と感じるかもしれません。しかし、特に複雑なプログラミングコードを書くことはないので、誰にでもできます。以下のヒントを参考にしてください。
- モバイルに対応する
- 現在ではモバイル(スマートフォン)のシェアがデスクトップ(パソコン)を超えています(StatCounter)ので、モバイル対応は必須です。幸いにもほとんどのCMSはモバイル対応となっていますので、モバイル用のWebブラウザでWebサイトを確認しつつ、モバイル優先で構築していきます。
- プレビュー機能を使う
- CMSにはプレビュー機能がありますので、公開前にWebサイトがどのように表示されるかを確認することができます。プレビューで調整しつつ最終的に公開するという流れでつくっていきます。
- 顧客の情報を収集する
- 後々のマーケティング活動に役立てるために、ニュースレターに登録できるフォームを設置することもできます。大抵のCMSには、この機能が付属しているか、サードパーティが提供しています。
5. 公開し管理する
Webサイトを構築して公開したら終わりというわけではありません。新しい作品やイベント情報を更新するなど、定期的なWebサイトの管理をしていかなければなりません。
そして、小さく始めたWebサイトを、どのように進化させ、成長させていくかを考えていかなければなりません。立ち上げ直後はスタート地点です。
Webサイトのログを確認すると、作品の購入に失敗していたり、イベント情報を見つけるのに難儀していることに気づくかもしれません。
公開と管理のヒント
Webサイトを継続的に改善するコツを、いくつか紹介します。
解析ツールを使う
Googleアナリティクスなどの分析ツールを使い、Webサイトへの訪問者がどのくらい滞在しているかなどを調べます。すぐに離脱しているようであれば、何か問題があることを示しています。スマートフォンでの読み込みに4秒5秒かかっていたり、訪問者が知りたいと期待するコンテンツでなかったり、コンテンツそのものに魅力がなかったりしますので、データを分析して改善案を検討しましょう。その他の指標についても、分析と修正を行っていきます。
マーケティングを行う
作品の認知度を高めるために、多少なりとも、Webサイトのマーケティングを行います。Webサイトから登録してくれた人には、定期的にニュースレターなどを送ります。また、顧客を呼び込むインバウンドマーケティング戦略を活用したり、その他のマーケティング戦略を検討します。
アーティストのWebサイトに適したCMS
世の中には様々なCMSが存在します。そのうちクリエイターのWebサイトにも使える、いくつかのCMSをご紹介します。
1. GoDaddy
GoDaddyのWebサイトビルダーは、プロに依頼したようにWebサイトを作成できるシンプルで簡単なCMSです。ドラッグ&ドロップで様々なレイアウトを作成でき、広告バナー、連絡先フォーム、CTA(行動喚起)など、すぐに使えるプロックが幾つも提供されています。
シンプルが故に細かい調整ができないという面があり、細かくカスタマイズしたいという人には不向きですが、きれいなWebサイトを素早く構築したい人にはぴったりのCMSです。

Webサイトの改善に役立つInSight機能や、マーケティングを実践できる、電子メールマーケティング、検索エンジン最適化(SEO)、Googleマイビジネスなどの機能や、定期的な情報提供やSEOに役立つブログ機能も提供されています。ソーシャルメディア管理やCRMも含め、すべてをGoDaddyで管理する場合には、非常に大きなメリットとなります。
また、作品販売に必要な簡易的なオンラインストア機能も追加できます。
2. Weebly
Weeblyは、Webサイトとオンラインストア(Eコマース)の両方を構築できるCMSです。コードを書かずにレイアウトできる使いやすいエディタで、簡単にWebサイトをデザインできます。小規模なWebサイトから100ページを超える比較的大規模なWebサイトまで問題なく対応しています。

ブログ、ビジネス、ポートフォリオなどのテーマ(テンプレート)が用意されていますが、それほど多くは提供されていません。デザインのカスタマイズは制限されていますが、素早くWebサイトを立ち上げたい人には有用です。
3. Wix
Wixは、機能と使いやすさと価格のバランスが取れています。他のCMSと比較して自由度が高いため、問題を引き起こしやすいですが、理想通りのデザインやレイアウトをつくりたいという人には向いています。

レストランのメニューや注文や予約、イベント管理とチケット販売、動画配信、メディアギャラリー、オーディオ配信や販売、ブログ、ブッキングカレンダー、そしてネットショップが備わり、非常に多機能です。
テンプレートは大量に用意されていますが、古いタイプのものも多くなります。
4. Squarespace
Squarespaceは、最も優れたCMSのひとつと言えるかもしれません。アーティストのWebサイトに適したポートフォリオサイトの美しいテンプレートが多数用意されています。ただし、インターフェイスが英語ですので、人によっては取っつきにくいこともあるでしょう。サポートも日本語は用意されていません。

デザインの微調整も非常に柔軟にでき、アーティストには最適なCMSのひとつです。また、電子メールマーケティング用のメールテンプレートも用意され、作品などを販売できるEコマースと合わせて、強力なマーケティング機能が備わっています。
5. WordPress
WordPressは、世界で最も使われているCMSです。それだけ信頼が厚く、ここに紹介した中では最も高機能で、最も拡張性が高く、無数のテンプレート(WordPressテーマ)と、機能を拡張できるプラグインによって、あらゆるWebサイトをつくることができます。
WordPressは、ソースコードが提供されているオープンソースのCMSで、無料で使うことができます。ただし、ホスティングは提供されていませんので、自分で用意しなければなりません。その分、若干手間が発生しますが、それほど難しくはありません。ホスティング(サーバー)を用意してWordPressのWebサイトを立ち上げる方法は、こちらで解説しています。
クリエイターに適したWordPressテーマの一例を見ると、その数と品質の良さに圧倒されるでしょう。もちろん、作品などを売るためのEコマースビジネスへの対応も、プラグインを追加することで可能ですし、最初から備わっているテーマも多数あります。

アーティストのWebサイト構築の最後に
アーティストにとってWebサイトは、名刺でありポートフォリオですので、最低限の要件として、美しくなければなりません。
また、マーケティングの中心として働かせるためには、ランディングページやブログを作成して、SEMによる有料検索なり、検索エンジン最適化(SEO)によるオーガニック検索なりで、顧客を集めることも必要になるでしょう。
美しいWebサイトと、そこにアクセスしてもらうためのマーケティング活動を組み合わせることで、自分が望むタイプの顧客を増やし、アーティストとしての自分や作品の認知度を高めることができます。そのためには、試行錯誤の時間と根気強い努力をもって、自分と作品を最大限に表現して、理解してもらえるWebサイトをつくることが大切です。